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テーマ:フィギュアスケート(3606)
カテゴリ:Figure Skating
世界歴代最高得点で四大陸選手権を制した高橋大輔選手。全日本に続き4回転を2回を入れ、そのほかのジャンプも、多少のミスはあったものの、ほぼ全部決めた。この安定感を見ると、3月の世界選手権王者にもっとも近い選手だということが言える。
フィギュアではオリンピックについでグレードが高いのが世界選手権。グランプリファイナルの比ではない。世界選手権を制したものが、そのシーズンの本当の王者なのだ。去年の男子王者はフランスのジュベール選手。彼は「ジャンパー」だが、昨シーズンは高い確率で4回転を決め、抜群の安定感で世界選手権も制した。去年のジュベール選手のような勢いが今年の高橋選手にはある。 だが、やはりライバルの動向も気になるところだ。今シーズンは後半になって、ジュベール選手は怪我をして精彩を欠いている。となると、やはり一番のライバルは、直接対決で唯一高橋選手が負けているランビエールだということになるだろう。 だが、ヨーロッパ選手権でそのランビエールを破った選手がいる。チェコのベルネル選手だ。この2人の戦いはどうだったのだろう。プロトコル(詳細な成績表)を見れば、ある程度のことはわかる。 現在フィギュアは「技術点」「演技・構成点」の2つの大きなカテゴリーで点数が出るシステムになっている。ヨーロッパ選手権でのフリーのスコアを見ると、 ベルネル選手 技術点75.92+演技点77.72=153.64、 ランビエール選手 技術点73.46+演技点80.00=153.43 非常に僅差でベルネル選手が勝ったことがわかる。ランビエールは演技点で上回りながらも、技術点の差で負けた。そして、この技術点をもっと細かく分類すると、勝敗を分けたものがもっとハッキリ見えてくる。 技術点はジャンプ、スピン、ステップの3つの要素に大きく分類できる。この3つの2人のスコアを見ると、 ベルネル選手 ジャンプ55.36+スピンとステップ20.56=75.92 ランビエール選手 ジャンプ50.17+スピンとステップ23.29=73.46 お分かりだろうか? ベルネル選手はなんと、ジャンプの要素で「しか」ランビエール選手に勝っていない。他の要素、スピン+ステップも、演技・構成点も全部ランビエールのほうが上なのだ。しかも、演技・構成点の5つのコンポーネンツを見ても、「スケートの技術」でランビエール選手と同点だっただけで、ほかの4つのコンポーネンツではすべて負けている。ちなみに、スケートの技術は多分にジャンプに準じて点数がつけられる。 つまり、ベルネル選手は「ジャンプだけでランビエールに勝った」ということができる。ベルネル選手自身もジャンプに関しては会心の出来ではなかったはずだ。1Aというのが1つある。一方のランビエール選手はもっとひどい。2Aが2つだけで3Aがない。つまり、トリプルアクセルを全部失敗したということだ。もう1つ大きな失敗として、3LZ+3Tで、2つ目の3Tが回転不足によるダウングレードになっている。これも痛かったと思う。ちなみに、4回転は2人とも1回ずつ決めており、ベルネル選手は単独、ランビエール選手は4T+2T+2Lになっている。 ランビエール選手はなんといっても、3Aが決まらなかったのが響いたということだ。3Aは彼の弱点でもある。3Aが1つも入らず2Aが2つでは点はのびない。4回転も今シーズン前半では2度入れを試みて失敗しており、グランプリファイナル、ヨーロッパ選手権ともに1回におさえている。 さて、では高橋選手の四大陸でのスコアはどうだったかのだろうか。 技術点 93.98(ジャンプ73.2+スピンとステップ20.78) 演技・構成点 81.86 ランビエール選手と比べると、ジャンプの点は傑出しているが、意外なことにスピンとステップの点では負けている。演技・構成点では若干勝っているが、技術点の高さに比べると、その差は拍子抜けするぐらい小さい。たったの1.98点だ。 これはランビエールのフリーのプログラム「ポエタ(フラメンコ)」の芸術性に対する評価がいかに高いかということの証左でもある。ちなみに、スピンとステップに分けて点数を見ると、 高橋選手 ステップ7.86 スピン12.94 ランビエール選手 ステップ8.06、スピン15.23 なんと、実はステップでもランビエール選手が高橋選手を凌駕しているのだ。これはグランプリファイナルでもそうだった。今シーズンのフリーに関しては、ステップの王者は天才高橋ではなく、ランビエールなのだ。 だが、それだからこそ、ランビエール選手は、ジャンプに精彩を欠いている。ヨーロッパ選手権でも3Aが入らず、4回転は1回、連続ジャンプでも回転不足… ステップやスピン、その他上半身の振り付けに比重が行き過ぎて、ジャンプをきれいに決められないのだ。逆に言えば、ジャンプをもう少し、いつものように決めさえすれば、ベルネル選手には十分勝てたはずで、やはり世界選手権で怖いのは、ジャンプだけのベルネル選手ではなく、ジャンプをもう少し成功すれば、ほかは高橋選手と遜色のないランビエール選手だということになる。 高橋選手の今年のフリーはジャンプに非常に力が入っている。去年の「オペラ座の怪人」に比べると、曲のもつドラマ性の表現は明らかにものたりない。高橋選手はエッジの使い方が超一級だから、単に滑っているだけでもうっとりさせるほど美しいが、それにしても、今年のプログラムがジャンプを跳ぶことに主眼が置かれていることは間違いない。その分を、ダンサブルなショートプログラムの圧倒的運動量でバランスを取っている感じだ。本当にモロゾフは巧みにプログラムを構成して配置する。 モロゾフは完全に、ジャンプで「ポエタ(フラメンコ)」の芸術性に勝つつもりでいる。ステップやスピンなんて、3回転以上のジャンプの基礎点や加点に比べたら微々たるものだ。現在のルールでは結局、ジャンプを正確に決めた選手が勝つのだ。ジャンプの難度は高いほうがもちろんいい。だが、高すぎてもダメなのだ。その大技に集中するあまり他のジャンプにミスが出てしまっては意味がない。難しいジャンプで失敗すれば四大陸フリーの安藤選手のような大幅な減点をくらうことになる。その意味では、高橋選手が4回転からの連続ジャンプを4+3ではなく4+2にしているのは、非常に賢い作戦だと思う。 ランビエールも高橋選手に勝つためには3Aを成功させなければならないし、かつ4回転を2度入れる決断をするかもしれない。今年のランビール選手はフリー後半に2度目の4回転を入れようとして、ことごとく失敗したが、世界選手権では高橋選手のように前半に2度4回転を入れてくるかもしれない。手の振りやステップの複雑さを多少犠牲にしても、ジャンプを決めるように振り付けを多少変えてくるかもしれない。 確かに「ポエタ(フラメンコ)」の振り付けは不世出の傑作だが、ランビエールは過去一度もこのプログラムを完璧に滑ったことがない。難しすぎるのだ。それはちょうど、浅田真央選手が今シーズンの初めに、あまりに密度の濃いプログラムを作りすぎて、肝心のジャンプを失敗し続けた状況に似ている。ランビエールがフラメンコの高い芸術性にこだわり、理想のダンスを追求し続ければし続けるほど、皮肉なことに、試合で勝てなくなってくる。それでなくても、ランビエール選手は全盛期ほどジャンプが決まらなくなってきている。 高橋選手のジャンプのハイスコアは当然最初の2つの4回転によるところが多い。この2回の単独4回転と4+2の連続で21.02点もの点を稼ぎ出している。逆に言えば、ここで失敗すると大きく点が下がるということだ。今回の四大陸で「銀河点」が出たからといって、最初のジャンプで失敗すれば、心理的な動揺も含めて、どういう展開になるかわからない。 世界選手権の男子フリー、今期2度目のランビエール選手との直接対決。本当に楽しみだ。もちろん、ジュベール選手の復調具合、シーズン後半になって調子を上げてきたベルネル選手の出来、ライザチェックの4+3が決まるかといった点も気になるポイントではある。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.02.22 05:37:11
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