【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

投資の余白に。。。

投資の余白に。。。

June 6, 2009
XML
カテゴリ:クラシック音楽
いま思いだしても泣けてくる。

前半の最後に演奏されたタレガの名曲「アルハンブラの思い出」は、まるで全体がたった一つのフレーズから作られた曲のように聴こえた。

もともと永遠の時間の流れの、その空気の中に存在していたこの曲が、たまたま彼女の指と楽器を通じてこの世に姿が現れた、そんな印象があった。この世を去ってもう二度と会うことはできない親しかった人。その人が音楽に姿を変えてただずんでいるかのように感じられたのである。

クラシックのコンサートに通い始めて40年、感動的な音楽はこれまでにもたくさん聴いた。しかし、これほどの天国的な美しさに満ちた音楽の時間は記憶にないし、たぶんこれからもないだろう。

ギター音楽とギタリストには関心を払ってきたつもりだが、日本のギター音楽界の独特の暗さ、聴衆の雰囲気に嫌悪感を覚えることが多く、最近は遠ざかっていた。

だから自分の判断に自信はない。自信はないが、直観で断言させてもらう。彼女こそ世界最高のギタリストである。彼女を超えるギタリストは現存しないし、これから100年のタームでも現れないのではないだろうか。

アナ・ヴィドヴィチは1980年クロアチア生まれ。2005年の初来日以来今回が三度目だそうだが一般には無名に近い。10代後半で世界的な3つのコンクールで優勝。28歳の若さですでに1000回を超えるコンサート歴があり、CDやDVDも複数のレーベルから出ている。

この「アルハンブラ」での「息の長い旋律美の表出」は、こうしたメロディアスな音楽ばかりでなく、他の曲でも聴かれた。「アルハンブラ」の前に演奏されたヴィラ=ロボスの練習曲(第1番、第7番、第11番)でも、たとえば特に分散和音が果てしなく続く「練習曲第1番」のような曲でさえ、和音全体がなめらかな音楽となって大きく息の長い起伏を描いていく。興奮ではなく瞑想、というより静かで深い興奮に誘われていく。

プログラムの最初はソルの「魔笛の主題による変奏曲」。最初の和音の一弾きで、このギタリストの類いまれな才能と音楽性は明らかだった。ナルシソ・イエペス以来、音量の小ささを克服するため、大きな音の要求される部分では駒の近くで弾き、固い音を出すギタリストが多い。しかし、ヴィドヴィチはそうした安易なというか、非音楽的なことはしない。

柔らかい音でたっぷりと響かせ、あくまで音楽が要求する音色でつまびいていく。音色の変化も絶妙だが、繊細でも神経質にならない。中でもピアニシモの美しさは幻想的なほどだ。

こうした音色で、長いフレージングで大きな呼吸で奏でられていくので、音楽が部分に分解することなく、日常と隔絶した「音楽の時間」がちょうど武満徹の音楽のように流れていくのだ。

2曲目、イギリスの作曲家ウォルトンの「5つのバガテル」はこれ以上ありえないほどの名演。意味のない音、考え抜かれずに弾かれている音が一音もなく、しかもそれが作為や思考のあとをまったく感じさせず自然かつ天衣無縫に流れていく。このように繊細でありながら興奮を呼ぶ音楽作りができるのは、ソプラノ歌手ロベルタ・マメリ以外に知らない。

後半はテデスコのソナタ「ボッケリーニ讃」、バリオス「大聖堂」、ピアソラ「ブエノスアイレスの夏」「天使のミロンガ」「天使の死」「ブエノスアイレスの夏」。

ギターに流派があるかどうか知らないが、北ヨーロッパのギタリストはラテン系のレパートリーもクラシックかつスクエアに演奏することが多く、ラテン系のギタリストはエンタテイメントに流れがちだし古典的な曲ではフォームに問題を感じることが多い。

アングロサクソン系のギタリストはどんな音楽も流暢に演奏するがそれだけ、という気がする。

しかしアナ・ヴィドヴィチはこうした偏りがない。テデスコでは古典的な様式美をきちんと踏まえていたし、バリオスやピアソラはそのラテン的・タンゴ的な要素を強調することなく、あるがままの音楽の姿を見せてくれる。ここでも印象的なのは息の長いフレーズと、超人的な技巧を要求される難しいフレーズでもまったく技巧を感じさせない演奏。

アンコールは2曲。多くのギタリストが愛奏するディア・ハンターのテーマ曲「カバティーナ」とアルベニスの「アストゥリアス」。「カバティーナ」は表情豊かに歌われながら音楽はあくまで清楚かつ清潔。

どこか東洋的な雰囲気のある「アストゥリアス」は情熱的に演奏されることも多いが、彼女の演奏はどこかシリアスな諦観を感じさせるもの。「美貌の若手天才女性ギタリスト」の中には、人間存在の本来的な悲劇性への洞察があるように思った。

アナ・ヴィドヴィチの奏でる音楽に絶賛以外の言葉を見つけるのはロバが針の穴を通るより難しい。

残念だったのは、この小樽(マリンホール)でのコンサートが今回のツァーの最終日だったこと。初日に聴いていたら、ツァーの追っかけをやれたのに。

それにしても美しい音、響き、しなやかでエレガントで上品で完璧なフォルムの音楽だったことか。

~アナ・ヴィドヴィチの演奏は地球外のそれだ~(コーリン・クーパー)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  June 8, 2009 05:29:07 PM
コメント(0) | コメントを書く


PR

プロフィール

ペスカトーレ7

ペスカトーレ7

カテゴリ

バックナンバー

May , 2024
April , 2024
March , 2024

お気に入りブログ

ドナルド・キーン「… alterd1953さん

不動産 夢の実現の… やっさんブログさん
減らないお財布を持… toms2121さん
www9945の公開プロフ… kitakujinさん
やまさんの投資日記b… やまさん12y3さん

© Rakuten Group, Inc.