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投資の余白に。。。

投資の余白に。。。

June 8, 2009
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カテゴリ:折々のバカ
金川欣二という人がいる。言語学者で数冊の著書がある。ホームページも持っている。言語学に興味はないが言葉には興味があるので、ときどきROMしている。教えられること、なるほどと感心することも多い。さすが博覧強記、話の引き出しの多さには敬服もする。

こんなことを書いている。

誰がマリア・カラスを殺したの?または制度化した音楽というタイトルの文章で、マリア・カラスが引退したのは日本公演で聴衆がブラボーを浴びせたからだと主張しているのである。

・・・・マリア・カラスは既に声も太くなっていて、自分で堪えられない演奏だったと思っていたのに、「ブラボー」が続いた。映画でも出てくるが、何をしても、観客は「ブラボー」というのであって、演奏を聴きに来ているのではない、サーカスに出ているのと同じだ、と思い、50歳にもならないうちに演奏活動を止めたのであった。

つまり、日本人の心ない「ブラボー」がカラスを殺したのだ・・・

この文章ではフライング・ブラボー批判に始まり、自然な気持ちで音楽を楽しむことをしようとしない日本の聴衆が問題にされている。そして、そうした聴衆が演奏家を殺すこともあるという例として、マリア・カラスが日本公演を最後に引退した事実をもって自分の批判の正しさの「証明」としている。

事実はまったく違う。カラスは翌年には日本でトスカを歌うつもりだったし、後進の指導にも意欲を燃やしていた。「日本公演を最後に引退」したのは結果として事実ではあっても、マリア・カラスを「記号として消費」するブラボー連呼のバカ聴衆に絶望して引退したのではない。

こんなことは少し文献をあたればわかることだし、自分の想像でしかないことを事実のように書くのは文章を書く人間が守るべき規範を逸脱している。結果としてこの人はウソをつき、読者をミスリードしている。

その文のあとにこんなことも書いている。

・・・ちなみに、カラスは若い頃、100キロを超えていた。『ゼフィレッリ自伝』(東京創元社)によれば、楽屋に『ローマの休日』のヘップバーンの写真を飾っていたという。あんな風になりたいと思っていたのだろうが、サナダムシ(広節裂頭条虫コウセツレツトウジョウチュウという種類で効き目は抜群、下痢、腹痛、悪性貧血を起こしやすく高いリスクがある)で痩せるなどという過激なこともして後にグラマーと言われるくらいまでに痩せたのである・・・・

これも全くのデマである。カラスが痩せたのはサナダムシを排出してからであり、ダイエットも16ヶ月で35キロという、過激ではなくむしろ穏当な痩せ方だった。

こんなことも少し調べればわかることなのに、この人は「調査なくして発言なし」という毛沢東の言葉を知らないらしい。

「調査なくして発言なし」という毛沢東の言葉を知らない、知っていても守らない、あるいは知っていても実践できないインテリはバカ以外のなにものでもない。こういうバカをやるから、ほかの文章も同じように稚拙な間違いが多いのではないかと思ってしまい、著書を読む気も失せる。

結論。金山欣二はバカである。彼の文章は基本的な誤りがある可能性があるので注意して読むように。

亀山郁夫という人がいる。全共闘運動に一瞬だけ参加したことのあるロシア文学者で、ドストエフスキーの翻訳(名訳)で知られる。東京外語大の学長でもある。

テレビで観て、何と誠実な人だろうと感服した。インテリはたいてい専門バカというバカと分類していいと思っているのだが、この人がテレビでしゃべるのを観て、こうした偏見を改める必要と自分の独善を反省したのだった。

しかしその番組(ショスタコーヴィチの音楽を紹介する音楽番組)での続く発言には驚いてしまった。

ショスタコーヴィチはスターリン主義下のソ連で生き死んだ作曲家である。その作品には、自分の名前を音型で印したり、反スターリン、反共産党のメッセージをしのばせた音型が散りばめられている。

スターリンやソ連共産党を支持している人には、それらをたたえているように一見きこえるが、そうでない人には作曲家の本意、つまりスターリン主義と共産党の圧政と戦う人々を鼓舞するメッセージが聞き取れる、そういうからくりや仕掛けがなされた音楽、それがショスタコーヴィチの音楽である。

ここまではわたしの意見であり、亀山の意見でもある。同じだ。

しかし、共産主義は崩壊した。共産主義が崩壊した現在、ショスタコーヴィチの音楽が世界中で評価が高まり演奏されているのは、反スターリン主義、反共産主義のメッセージを、グローバリズムに対する抵抗のメッセージとして「読み替えて」聴く人が増えているからだと、この人はのたまったのである。

わたしのへそは茶をわかし、お尻は椅子からずり落ち、ブルータスよお前もかというシーザーと同じため息をつくことになった。亀山郁夫よ、お前もか。

クラシック音楽の流行を作り出すのはレコード会社やマスコミである。ベートーヴェンやブラームスに飽き、マーラーにも飽きた聴衆に何を売ればいいか。最後の交響曲作家であるショスタコーヴィチがいた。2006年は生誕100年というアニーバサリーでもあった。

こうした「商業主義的な」動機で作られたのがショスタコーヴィチ・ブームである。

クラシック・ファンの中心的な階層はプチブルであり、疑似インテレクチュアルである。男でいえば、理系の高偏差値大学の出身者が圧倒的に多い。こうした連中はだいたいにおいて政治オンチであり、保守的な思想の持ち主が多い。いや、保守的という以前に、アタマは空っぽで何も考えていないと言った方が正確だ。

断言するが、グローバリズムという言葉の意味を知っている人間など、クラシック・ファンには数%もいない。

彼ら彼女らは、音楽に癒しや慰めや刺激を求め、いっとき現実逃避しているだけだ。キャバクラやホストクラブに行くのと動機は変わらない。故宮下誠のように音楽に「世界苦」を聴く人間などほぼ皆無と言っていい。

現代は、他人や世界の痛みを遠ざけるような愚昧な情報に満ちている。その限りにおいて「クラシック=ショスタコーヴィチの音楽」もまた、そうした愚昧な情報の一つとして「消費」されているだけだ。音楽は、利己的かつ狭小な世界に閉じこもり、無自覚とイノセントであることに疑問を持たず快楽的・享楽的に生きている人間、つまりブタのエサになっている。
        
インテリは、説明したがる。わからないことを、わからないと言えない。わからないことでも、もっともらしい理由を見つけてなるほどと尊敬されようとする。

これは臆病のなせる技だと思う。インテリは「わからない」と言えないのだ。質問されたら正解を答えなければならないという強迫観念に支配されている。

その点、小田実のような「インテリ」は偉大だった。彼の話は、自分が見聞してきたことを並べ、こうかもしれない、ああかもしれない、わからないが一緒にかんがえよう。そういうスタンスで一貫していた。

ここだけの話だが、わたしも金川や亀山のようなインテリの端くれだ。だから彼らのような「バカ」をやってしまいそうになることがある。いや、この連載やブログでもやっているかもしれない。

しかし、わたしは匿名の存在であり、金川や亀山とはちがう。失うべきなにものもないから放言ができるし、何の責任もないし(残念なことに)影響力もない。ノブレス・オブラージュからも自由だ。

大事なのは、わからないことはわからないという勇気なのだ。金川や亀山に代表される「良心的で誠実な知識人」に欠けているのはこの勇気だ。彼らはバカにされるのがコワイのだ。人にはバカにされていろ、という「親父の小言」も知らないのだろう。

亀山のような「解釈・解説」病はインテリ一般に広く見られるが、別の言い方をすれば観念や抽象に遊ぶ、または逃げているということだ。

もちろん抽象化や観念化が必要なこともある。議論というのはだいたいにおいて具体的なことを抽象化して行われるものでもある。だから物事を抽象化できない人間は議論ができず発展がない。

しかし、そうした議論ならともかく、一般的な視聴者や読者を相手にするときは徹頭徹尾具体的でなければならないと思う。少なくとも、抽象化した断定は避け、「ではないだろうか」と仮説の提出にとどめるのが誠実「ではないだろうか」。

いろいろな本を読んで、この本はおもしろい、あるいは著者の真情が伝わる、と思うことがある。そういう著者の文章を検証してみると、共通点がある。

それは、常に具体的かつ詳細で、観念や抽象に遊ぶことがないということだ。

世の中はややこしい。金川や亀山や、さらに言えば辺見庸のような、知的で誠実で「世界苦」に共感できる人間的感性に満ちたインテリでさえ、こんな初歩的なことがわからず、あるいは心得違いをしてせっかくの業績をすべて吹き飛ばしてしまうような不用意な「一言」を発してしまうことがある。





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最終更新日  June 9, 2009 09:59:11 AM
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