長編時代小説コーナ
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龍5777
基本的には時代小説を書いておりますが、時には思いつくままに政治、経済問題等を書く時があります。
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「今宵はその方には用はない」 求馬の一言に春野が不審そうな顔をした。 「春野、お千代の部屋に案内(あない)せい」 「お方のお部屋にとな」 「そうじゃ、天下の淫乱女を犯すために参上した」 「なんと・・・お方さまを犯す申すか」 春野が信じられない言葉を聞き、覆面姿の求馬を凝視した。 「よいか無用な詮索は止すことじゃ」 感情のない乾いた声が春野を底知れぬ恐怖に落としこんだ。 「誰がそのような事を」 「断れば命を奪う」 「それは出来ぬ」 春野が恐怖で顔を歪め、蒼白となって首を振り断った。 腰間の村正が白い光芒放ち奔りぬけ、春野の長襦袢が彼女の躯から 滑り落ちた。求馬は春野の肌に傷ひとつつけない腕を見せた。 春野が全裸とされる光景をみた腰元が悲鳴をあげた。恐怖の限界を 越えたのだ。 「何事です」 周囲の部屋から女達の声があがった。 「さあ春野、お千代の部屋に案内いたせ」 鳥肌のたった全裸を晒し、春野が露わな姿でのろのろと立ち上がった。 「早ういたせ」 非情にも求馬が彼女の裸の尻を蹴上げた。豊かな尻の割れ 目から女の性器を露わに見せた春野は、乳房と秘毛を衣装で隠し長廊下へ と踏み出した。それは猥褻というよりも、滑稽で醜い光景であった。 「春野の局さま、そのお姿はいかが為されましたぞ」 女達が騒ぎだしたが、直ぐに重苦しい沈黙につつまれた。春野の背後から 忍び装束に覆面姿の男が、うっそりと現れたのだ。女達が息を飲み込んだ。 「曲者っ」 大奥警護の腰元が薙刀を抱え進路を遮った。 求馬が廊下に佇み村正を抜き放った、刀身が灯りをうけ鈍い光沢を放って いる。その男の身から得体の知れない不気味な気迫が漂っている。 警護の腰元が左右から求馬を両断すべく鋭く襲いかかった。流石は警護の 腰元だけある腕の持ち主であったが、村正が弧を描き腰元の手から薙刀が 払い落とされ、長廊下に乾いた音を響かせた。 春野がよろよろと覚束ない足どりで奥へと歩を進めた。 奥の豪華な部屋の一室の襖が開き、美貌な女人が姿を見せた。 その美貌と気品は他を圧倒する、存在感を示している。 「何事ですか、その姿は」 臆する様子も見せずに春野を叱責した。 「お方さま」 鳴き声をあげた春野が廊下にへたり込んだ。 「その方が、お千代じゃな」 灯りの翳から低い男の声がした。 「無礼者、ここは大奥じゃ。男子禁制の場所と知っての狼藉か」 「わしが伊庭求馬じゃ」 「その方が伊庭か、下がりゃあ」 お千代が美しい声で無礼を咎めた。 「お千代、今宵は皆の前でそちを辱めるために参上いたした」 「なんと申した」 お千代の顔から血の気が失せ、見るみる蒼白となった。 「義父とは申せ、讃岐守と情を交わした獣にも劣る女子を犯すためじゃ」 求馬が廊下に響き渡る大声を発し、お千代のそばに近寄ろうと前進した。 大奥の女達の囁き声が求馬の耳朶に聞こえてくる。 あの叫び声は、十分に計算したうえで発したものであった。 お千代は寝衣装に薄い羽織を纏い、「近づくでない」と柳眉を逆立て 美しい眼を見開き声を荒げた。 他の女達は先刻の求馬の凄腕を見せられ、金縛りとなって一人も動こうとは しない。 「春野、御鈴廊下に案内いたせ」 「御鈴廊下とな」 御鈴廊下とは江戸城の中奥と大奥を結ぶ、ただひとつの通路である。 将軍が大奥にお成りの時、合図として鈴が鳴らされるためにそのように 呼ばれていた。 春野は衣装を整え懐剣を手にし、お千代を庇って前に立ちふさがった。 「女子を斬ることは好まぬが、案内せねば斬ることになる」 乾いた声に底知れぬ気迫が込められている。 「お方さま、春野は命に代えてもお守りいたします」 春野は健気にも忠義心をみせ、お千代も懐剣を手に春野の背後に身を潜め ている。三人の周囲は豪華絢爛な大奥の女達で埋まっている。 その群れは春野の案内でゆっくりと長廊下を伝え、御鈴廊下の出入り口に 近づいている。中奥の廊下にはと宿直の武士が大刀を片手に群がっていた。 大奥に曲者が侵入したとの報せで駆けつけた者達であった。 伊庭求馬無頼剣(1)へ
伊庭求馬無頼剣(107) Nov 10, 2010 コメント(6)
伊庭求馬無頼剣(106) Nov 9, 2010 コメント(3)
伊庭求馬無頼剣(105) Nov 6, 2010 コメント(4)
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