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Oct 17, 2013
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「小栗上野介忠順」(108)


 上野介は借款締結が不成立に終わることを恐れていた。

 なんせ地球の裏側で起こっている出来事で、自分自身では動けないのだ。

 彼は直ぐに栗本安芸守を呼び寄せ、仏国での出来事を相談した。

「薩摩も遣りますな」

 栗本安芸守は上野介の心配は充分過ぎるほど解る。

 幕府の再建は借款締結に掛かっているのだ。

「瀬兵衛さん、あんたが渡仏してくれぬか」

 上野介が剽悍な目で栗本を見つ頼んだ。

「剛さん、幕府の為じゃ、おいらが渡仏するよ」

 安芸守は自ら了解した。彼の任務は三件の重大項目の解決である。

* 六百万ドルの借款の速やかな締結。

* その担保として蝦夷地の開発権を仏国に与える。

* 薩摩琉球藩なんぞは日本に存在してない事を列国に知らしめる。

 最後の項目は薩摩藩の流した情報の是正である。幕府は数百年にわたり、

政治を朝廷より委任されており、日本の政府は徳川幕府である。

 更に全国の大名は幕府により統治されている。これをパリの財界人に

訴えると同時に、列国に認識させる、これが栗本安芸守の任務であった。

 六月初旬に栗本安芸守は勇躍し仏国に向って出航した。

 彼が帰国したのは幕府が崩壊した、明治元年五月十七日であった。

 この日は彰義隊による上野戦争の翌々日で、彼は再び上野介に再会する

ことは叶わなかった。

 薩摩藩はパリで思いもよらぬ情報に接していた。

 その情報源はモンブラン伯からのもので、驚くべき内容であった。

 幕府は封建制度を廃止し、中央集権郡県制度を実施する。更に薩長を征伐

する。幕府がこのような壮大な構想で、薩摩藩、長州藩を潰すことを画策してい

ると知った二藩は、激怒し更に結束を強める結果と成ったのだ。

 栗本安芸守はパリに着任し、財界人や列国の要人と会談を行い借款の

締結が結ばれるよう、必死で働いたがそれは反故と成ってしまった。

 この背景には仏国の意向が色濃く存在していた。直接の原因はロッシュの

支持者であった外相が、辞職した事から端を発したものであった。

 この頃の仏国はメキシコ干渉やその他の外交政策がことごとく失敗していた。

 これにより外相の更迭問題が起こっていたのだ。

 ロッシュは後ろ盾を失い、かってのような柔軟な対日政策が執れなく成ってい

た。借款の件も仏国政府の干渉があったと思われる。

 これを知った上野介の落胆ぶりは、眼にあまるほどであった。

 既に横須賀では着々と製鉄所の建設が進んでおり、兵制改革の一環とし、

軍艦、武器弾薬の購入がうなぎ上りに増加していた。

 これも六百万ドルの借款を前提とした計画で、上野介は金策に窮した。

 併し、彼は幕府の勘定奉行の職務として、乾いた手拭から絞り出すように、

必要とする金子を捻出していた。

 傍から見てもどうして金策しているのか理解が出来ないことであった。

 幕閣の重臣等は不審に感じているが、この状況下では上野介の手腕に

頼るほかなく、上野介に全てを任していた。

 上野介は自慢の庭で椅子に腰を据え寛いでいる。足元も頭上も新緑に

覆われている。彼の脳裡にはこの先の幕府再建策が駆け巡っている。

「殿っ、」

 用人の塚本真彦が遠慮がちに声をかけてきた、暫く主従の語らいのない事

に気付き、上野介が手招きし呼び寄せた。

 心持ち心配顔の塚本が上野介の前に腰を据え、

「大変な事態と成りましたな」

「何の良き休息が出来るわ」

 上野介が巻タバコに火を点じ、紫煙を眼で追っている。

「いよいよ薩長両藩が同盟いたしたと聞きまして、殿のご苦労が偲ばれます」

「いらぬ詮索は無用に致せ、わしは未だ負けてはおらぬ」

 上野介が股肱の用人の顔を見つめ、薄い笑いを浮かべた。

「殿には金策の当てが御座いますのか」

「あると申したらどうする。塚本」

 上野介が自信たっぷりに答え、紫煙を吐き出した。

「はて、それがしには一向に分かりかねます」

「わしに金策の計あれば、幕府には洋式陸軍と東洋一の海軍がある。

断じて薩長なんぞには負けぬ」

 上野介が剽悍な眼差しで語気を強めた。

「金策は可能と申されますか」

「うむ」

 塚本真彦が肯く主人の顔を見つめ直している。


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Last updated  Oct 17, 2013 11:39:37 AM
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