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Dec 8, 2013
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「小栗上野介忠順」(207)


 既に徳川家は大政奉還をなし、政治を朝廷に返上している。

 それを受け朝廷は帝が自らの政治を行わんとし、王政復古を唱え薩長に

討幕の密勅を降している。それ故に彼等は挙げて徳川征伐の軍を進めている。

 この状況を打破せんとした幕軍は、大阪城に籠り徹底抗戦をする。

 この事に意義があったのだ。この戦いに勝利すれば徳川家は再び朝廷から

政治事を委任され、日本政府として列国と交渉が出来る立場を確立することが 

出来たのに、上様はそれを放棄して敵前逃亡を計ったのだ。

 武家の頭領として何たる不覚悟か、薩長の軍勢を京より駆逐すれば容易に

目的が達成できた筈である。

 薩長二藩が壊滅すれば朝廷は武力背景を失う、これも衆目の一致するところ

であるのに、その機会を自ら放棄したのであった。

「無念じゃ」

 思わず上野介が血を吐くように悔恨の思いを洩らした。

「閣下、ご覧下さい」

 シャノアン少佐が顔色を変えて指を差した。

 教練場には弾薬や食料を満載した大八車が所狭しと並び、大砲が砲門を夜空

に向け出撃の準備が成されている。それらを警戒する兵士の姿が眼に入った。

「閣下、我々は幕府の為に血の滲むほど、お国の兵士の訓練を致し、彼等は

一級の戦士と成りました。この期になって出撃を止めよと申されますか」

 シャノアン少佐の周りに仏国士官や下士官が集まり、眦(まなじり)を決して

上野介を見つめている。

「致し方が御座らん、堪えて下され」

 上野介はひたすら彼等に頭を下げ、謝るのみであった。そのうちに大鳥圭介

を先頭に幕府士官もおいおいと集まって来た。

「小栗さま、上様の敵前逃亡は本当に御座いますか」

 口々に喚き声をあげ上野介に詰め寄った、中には涙を滴らせた者も居る。

「諸君の驚きは尤もじゃ。わしも悔しい、勝てる戦が出来ぬのじゃ。未だに上様

は行方不明じゃ。総大将が居られぬ戦が出来るか」

 上野介が怒りの為に顔を朱色に染めた一同を見廻し、更に言葉を続けた。

「薩長に錦旗が挙がった事が上様の逃亡の理由じや。このうえは上様のご帰城

を待って、命を賭して再戦をお願いいたす所存じゃ。堪えてくれえー」

 悲壮な上野介の言葉に一同は口を閉ざした。

 上野介がこの場の誰よりも無念に感じている事を全員が知っていた。

 彼等の視線の前に佇む上野介の顔が乾いて見えた。

 それは武人の執念が乗り移ったかのような顔付であった。

「糞っ」

 数人の幕軍士官が拳で涙を拭いながら、闇に閉ざされた広場に駆け散った。

 突然、大砲が火を噴き、銃声が響きわたった。彼等が悔しさを紛らせている

のだ。轟々たる砲声が三崎町の夜空を震わせている。

「お気持ちは分かります。是非、大君がお帰りに成られましたら再戦を勧めて

下さい。幕府は必ず勝てます、彼等は興奮しております。許してあげて下さい」

 シャノアン少佐が声を潤ませている。

 彼等仏国士官にも上野介の無念の念が分かるのだ。

「メルシィー」

 上野介が仏語で礼を述べた。

「少佐、彼等の暴挙だけは止めて下されや。わしの命を賭しても上様には必ず

再戦をお願いいたす覚悟に御座る」

「我々は閣下を信じております」

 その言葉に上野介が深々と頭を下げ感謝した。

「彼等が軽挙妄動せぬように宜しく頼みますぞや」

 彼は自慢のアラビヤ馬に跨り教練場を後に闇のなかに消えて行った。


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Last updated  Dec 8, 2013 04:15:38 PM
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