女郎花 4 捨てられ、犯され、棄てられ、売られ
お捨てはよく働いた、辛い仕事も嫌な顔はしなかった。かかさん,おとうのためだと辛抱できた。 赤ん坊のおみよは、お捨てを見つけると、「きゃっきゃっ」と嬉しがった。 お福もそんなお捨てを「いい子守が来たもんだ」と便利に使っていた。 お捨てはひもじい思いもしなくて済んだ。この生活が続けばいいなあ、とお捨ては思っていた。 だが、己之吉の言うように、川の流れは絶えず変化していく、お捨ての住む川も急に形を変えて流れはじめた。 お捨てが15歳になった年の冬だった、 お捨ての寝床に酔った主人の源三が忍び入り、有無を言わさずお捨てを犯した。「お前は買われた女なんだから、言うことを聞かなけりゃ追い返すぞ!」と、酒臭い息で脅された。もじゃもじゃの身体がお捨てを押さえつけた。その夜から、源三は毎晩のように納屋に現れて、お捨てを犯した。 荒々しく犯す源三に体を固くしてじっと我慢をしていた。涙が眼の端から一本の筋のように流れた。~外吉、外吉~と、唇が動いた。 源三の女房のお福は木戸の隙間から、暗い目で、じっとお捨てが犯されるのを見ていた。 それからのお福は、鬼のような形相でお捨てに当たり、冷たい仕打ちをし、意地悪をし、ぶって蹴った。 飯もほんの僅かしか与えられず、お捨ては急激に痩せてった。 お福は我慢がならなかった。木戸の隙間から見る源三とお捨ての交合に腸が煮えくり返って、ぶるぶる震える黒い怒りの塊をどうしようもできなかった。 雪に家々が埋もれそうな寒い夜、 お福は「いやだよう、いやだよう」と、泣き叫ぶお捨てを棒でつつくようにして家から追い出した。木戸がガタンと閉められた。「雌猫は油断も何もあったもんじゃない、お捨ては売っぱらったよ、女衒(げせん)の銀蔵の奴、傷ものだからって、値切りやがって、三両だってさ!」 悔し紛れに源三に怒鳴っていたが、源三は苦虫を潰したような顔で、酒を飲み、木戸に背を向けたまま、濁った眼で、黒ずんだ天井を見つめていた。 「さあ、おいで、寒かろうに、おお、別嬪さんだ、首の痣も白首にしちまえば誤魔化せる、まあ、おじさんにまかしとけば、おいしいおまんま、たんと、食べさせてあげるから、安心しな」 猫なで声だが、怖い眼をした下谷の女衒(げせん)銀蔵が外に待っていた。 お捨ては源三とお福に棄てられ、売られた。人買いに買われて、白い雪の降る中、また知らないところへ、連れて行かれてしまった。~外吉、さよなら、でも、いつか逢える、逢える日まで待ってるから~ お捨てはざくっざくっと雪を踏みしめながら、外吉のことを思ったが、もう、会えないかもしれないという絶望をしんしんと降る雪が埋めていった。 遠い山も雪にすっぽりと覆われていた、 雲は重たく鼠色に垂れこめ、暗い雲の中に外吉を見つけることはできなかった。 つづく 朽木 一空