深川六間堀河童の空騒ぎ 6
深川六間堀河童の空騒ぎ 6 六間堀河童裁定 「河童だ、河童だ、ほら、ほんとに河童だよ!」 濁った水中から泡とともに河童の頭がのぞき、間もなく水中に没する。それを繰り返していた。 魚平は、つい調子に乗って、姿を見せすぎたことに悔やんだ。人目に晒すのは一瞬でよかったのだ。 河童のようなものを見た、その 奇奇怪怪 とした不思議が取りざたされ風説となって拡がっていくのだ。船宿清河の女将おかるの狙いはそこにあったのだった。 「まずいことになりそうだ、これじゃ河童の川流れになっちまう、」 魚平は慌てて水の中に潜った。水面下に姿を消し、堀の水面には僅かにブクブクとした泡のようなものが浮いただけであった。 見物人があっけにとられ狼狽えていたが、岡っ引伝兵衛は冷静に状況を見ていた、 そして、僅かに浮いてくる泡を追って、六間堀から分かれている五間掘り、そして、弥勒橋の袂から門前の団子屋に辿り着き、着がえようとしていたびしょ濡れの魚平を捕らえた。 「お前が六間堀の河童の正体か?」 「いいえ、あっしはただ、河童の格好をして遊んでいただけでございます。」 魚平は河童の衣装を脱がされ、お縄になった。 六間堀町の自身番にひったてられ、岡っ引伝兵衛の取り調べを受けた。 船宿清河の女将、おかるの仕組んだ河童騒動であり、 おかるに雇われて、尻玉を抜かれたと吹聴し、惚けたふりをして堀の上道をふらふらしていた瓢六も自身番に連れてこられた。 「瓢六、おめえ、尻子玉抜かれたと言ってるが、尻子玉とはなんのこっちゃ」 「へい、尻の穴の蓋でございまして、これがねえと、糞が垂れ流しになっちまうんでございます。」 「それは不便じゃのう、」 「ですからあっしは尻の穴に酒樽の蓋をしております。」 さて、岡っ引き伝兵衛、お縄にしてみたが、世間を騒がせたとはいえ、何も人様に迷惑を変えてもいない。奉行所に送ったら、遠山金四郎様は魚平、瓢六にどんな裁定を下すだろうか?と、案じてみる。 岡っ引伝兵衛は両名の罪を探せないまま、何もお奉行の手を汚すこともあるまい、 自身番で収めてしまおうと考えた。自ら裁定を下したくなったのである。 畑の胡瓜を盗んだわけじゃなし、人に危害を加えた訳じゃなし、 まあ損したと云えば、10文で河童釣りをした者だが、みんな騙され上手な江戸っ子だ、怒ってるやつなどはいやしない、ひと夏の夢物語だと思えばいい。 よし、岡っ引伝兵衛は裁断をした。 「天保の飢饉以後、深川六間堀では、間引きしようと、赤子を堀に投げ込む若女が絶えなかったが、何とか食い止めようと、手の込んだ河童騒動の芝居をした、船宿清河の女将、おかる、魚平、瓢六、の尽力により、六間堀に赤子が浮かぶことがなくなったこと、誉めて遣わすぞ、三名の者放免じゃ、お構いなしじゃ、 魚平、これからもたまには河童の顔を見せるがよいぞ、、」 遠山金四郎も顔負けのお裁き、よっ!、さすが江戸の岡っ引き伝兵衛親分、 ぱちぱちぱち、、 それを聞いた、北町奉行見廻り同心の北町奉行日下弦之介、 「うむ、伝兵衛、天晴れな裁断であったぞ、ところで、ちとたずねるが、その河童はメスであったか、オスであったか、もしオスであったならその形状は如何に?、」 「へい、その河童、尻玉ではなく金玉を抜かれておりました。」 深川六間堀河童の空騒ぎでござあい、お後がよろしいようで、、、 お終い 朽木一空