忍草 外伝11 枯草の最後っ屁 11 最終回
忍草 外伝11 枯草の最後っ屁 11 最終回 惚れにくい顔がきて 買う惚れ薬 江戸川柳 そりゃあ、顔面差別だ、わしゃあ泣きたいね、、 遠山の金さんの瓢六に対する裁定が面白くない人がいた。 この遠山裁きでますます江戸庶民の人気が上がった遠山景元が気に入らぬ、南町奉行の鳥居耀蔵の入れ知恵もあったのだろうか、筍医者と呼ばれた町医者たちが大挙して北町奉行所に押しかけ訴えてきた。 昔からいた町民の味方の町医者とは違って、免許も資格もいらず「俺が医者だ」といえば医者になれるご時世に、医学の知識があるのかないのか、怪しげな者がとにかく金が儲かる、いい身分でいられる、とばかりに雨後の筍のように生えてきた筍医者と呼ばれる医者だった。 黒河流庵のよろず診療所の人気が高まり、患者が減ってきて、さらに診療代も薬代も高いと文句も言われる、自分の医術の未熟さを棚に上げて、患者が来ないのを黒河流庵の「よろず診療所」のせいにしているのである。 ~お奉行様、黒河流庵の「よろず診療所」に治療費や薬代を払えない貧乏人だけが行くのならまだ許せますが、この頃ではよろず診療所の人気が高まり、金持ちの患者までが「よろず診療所」に並んでるそうだ、これじゃ、私たち町医者は成り立たない、ご政道を正して、取り締まってもらえないか~ と、いう嘆願だった。 「そうかい、治療費を払えない貧乏人だけが黒河流庵のよろず診療所に行くのならかまわないが、金の払える富裕層の患者までが行くことが面白くない、金持ちだけは我々が診るってことなのかい?おめえたちは今まで、貧乏人から診察を頼まれても渋っていたそうじゃねえか。医術は金のなる木とでも思ってるのかい?」「いえ、そうじゃねえんで、薬代には元手がかかる、その薬代も貰えないんじゃ、医者商売はやっていけねえんで、金のない貧乏人は断ってただけですよ」「それじゃあ聞くが、貧乏人は病気になっても医者にかかれねえと、金がなきゃあ、命も諦めろとこう、言うんだな」「それは言いがかりというもの、薬には元手がかかりますってことですよ、そんなこともお奉行は知らないんですか?」 「おいっ、俺を舐めてんのか、お前ら、うどん粉丸めて捏ねたものをよく効く薬だと言って、法外な値段をつけていたんじゃねえのかい、」「とんでもない言いがかりですよ、お奉行様。みな日本橋三丁目の薬種問屋から仕入れた、よく吟味された高価なものでして、決して紛い物なんかじゃありませんよ、それをただにされちゃ町医者は成り立たねえってことですよ」 勝ち誇ったような筍医者の面々、だが、遠山景元は怯みやしねえよ、 「おいっ、筍医者よ、勘違いしちゃいけえねえよ、よろず診療所はな、診察代も薬代もただでいいわけじゃねえんだよ、ただね、金のない貧乏人からは取らねえよと言ってるだけだ。金の払える者からはちゃんと貰ってるよ、患者が列を作るのは、確かな医術のせいだ、腕がいいんだよ、そこの何処がおかしいいかい?」 「ですから、お奉行様、金のないものからは診療代も薬代もとらねえ、そんなことされちゃ、町医者はやっていけませんよ、と言ってるんですよ。「よろず診療所」にお奉行が肩入れして、いろいろ面倒見るのなら、我々町医者も面倒見てくれなきゃ、不平等ってもんですよ、」 「おいっ!小石川診療所は別にして、「よろず診療所」に奉行所も幕府も何の援助もしてやしねえし、面倒も見ちゃあいねえよ。 それよりよ、だいたいこの頃の江戸の町には医者が多すぎやしねえかい、雨後の筍のようににょきにょきでやがって、みんな筍医者だと笑ってるぜ、だから、こんなことで揉めてんじゃねえのかい。 これからは、いっそのこと、免許というものでもを作って、その免許のあるものしか治療しちゃいけねえということにでもにしようか、」 「いえ、それも困ります、だいいち、町医者に免許など必要ありませんよ、」 筍医者たちも、ここで引くわけにもいかなかった。 「おお、埒が明かねえな、それじゃあ、こうしようじゃねえか、診察代も薬代も公平に決めたらどうだい、そのほうが、わかりやすくっていいや、町民だって、いくら診察代や薬代がいくら取られるのか、びくびくしなくったっていい、患者の家の様子を見て、薬代を上げ下げしちゃあいけねえことにしようよ、」 「いや、それも困ります、患者は十人十色、様々でございます。」「そうかい、わかった、お前たち筍医者もいい訴えをするもんだ。感心したぞ。みな医者は平等に扱えと言うんだな、そいつはもっともな訴えじゃ、ようし、北町奉行遠山景元、しかと、その訴えを聞こうじゃねえか。 その上で、よいか、裁定を下すぞ、よく遠山裁きを聞けい! 「今後、江戸の町においては、貧乏人からは診察代も薬代も取っちゃいけえねえってお触れをだそう、そうすりゃ、「よろず診療所」みてえに、どこの町医者だって患者が列を作ってくるようになる。そうしねえ、そうしねえ、そうすりゃあ、平等、医者も貧乏人も丸く収まるってもんだ。よいな、これにて一件落着だあ、」 この裁定にはさすがの筍の町医者連中も参ったようだ。「お奉行様、恐れ入りました。この訴え取り下げにいたします。」 筍医者の腹の中に黒い虫が住んでいやがった。誰だって、腹に穴を開ければ悪い虫の一匹ぐらいはいるだろうが、医者の腹の中の黒い虫は腐っていやがって臭くていけねえな。 だが、瓢六爺さんの腹の中の悪い虫は、いいことをしやがった。 ~枯草の最後っ屁はいい匂いがしたよ~ 赤い顔して酒を飲みながらも、旗本屋敷に忍び込んだ盗賊、見事な小舟の棹捌、忍草、蛇抜け長屋の巻で活躍したあの忍草の鯉兵衛が瓢六ではないかと感づた読者もいただろう。そうだったのだ、蛇抜け長屋から脱出して姿をくらましたあの老人はまだ江戸の町の中で暮らしていたのだった。 静かに暮らしていればいいものを、密命もないのに動きだして、鯉兵衛さん、瓢六さん、もう、江戸にはいられねえよ、伊賀にも帰れねえよ、、付録です、 食べ物養生訓 ~黒河流庵~~リンゴ一個で医者いらず~柿が赤くなると医者は青くなる~トマトが赤くなると医者が青くなる~梅はその日の難のがれ~ 大根どきの医者いらず~サンマが出ると医者がひっこむ~ 医食同源、医者いらずの食べ物です、もちろん下肥たっぷりでござんすよ、、 終わり 朽木一空