地獄の沙汰も銭次第でござんすよ 2
小伝馬町牢屋敷 聞きがたり 2 地獄の沙汰も銭次第でござんすよ、 てな、ことで、小傳馬町の牢へ入牢でございますよ。 高さ七尺八寸(約2m34㎝)の煉塀で囲まれ、堀が巡らされており、南西部に表門、北東部に不浄門が設けられ、面積は2,600坪を越えてますから、まさに大名屋敷並み、牢屋敷と呼ぶにふさわしい造りでございますよ。 小伝馬町の牢屋敷の囚獄(牢屋奉行)は代々世襲の石出帯刀様で、下に鍵役を筆頭として、58名の牢屋同心がいて、数役、打役、小頭、書役、賄役、世話役などを務めております。さらに、その下に張番(はりばん)の下男(しもおとこ)38名がおります。牢屋同心は20俵二人扶持で30俵一人扶持のサンピン侍よりも下の下級同心なのですが、下男(しもおとこ)となれば、最下級抱席(かかえせき)の御家人で、辛うじて、二刀をたばさむことのできる武士の身分でございますが、年、一両二分一人扶持じゃあ、とても食ってはいけない、薄給でございまして、その役を解かれれば、御家人の身分も剥がれてしまうという哀れな身分でございます。 おまけに、牢屋敷内には斬首の処刑場もあり、不浄な場所とされていまして、幕府からも不浄役人と蔑まれ、世間の人からは嫌悪され、蔑視され、牢屋同心の息子は嫁の貰い手がない、娘は嫁の行き先がない、とまで言われおりまして、まあ、損で、嫌なお役目なのですよ。 同心や下男(しもおとこ)がよく我慢してそんな境遇の牢屋敷で働くとお思いでしょうが、そこはそこ、大層な余禄があるのでございますよ。 地獄の沙汰も金次第と言いますが、牢屋の中も銭次第なのでございまして、鍵番(牢屋同心))や張番(牢屋下男)を通して、何でも手に入るのでございますよ。 衣類、飯、蕎麦、酒、たばこ、菓子、薬、鮨に鰻の料理まで何でもござれでございました。 一分金で200文ほどのものが手に入ります、ざっと五分の一の銭が消えていくのです、鍵役同心や下男はその度に少なくない駄賃を受け取るのでございます。またそうしなければ牢外から物が手に入らなかったのです。 さらに、下男たちは、見届けもの(差し入れ)を横取りし、賄い料をごまかしていたのです。 伝馬町の牢を管轄する町奉行所もそのことには目を瞑っていた。そうでもしなきゃ、やってられねえのが牢屋役人なのをわかっていたのだった。 けどねえ、儀左衛門の旦那、実はねえ、こんな袖の下は序の口で、まだまだ、恐ろしい賄賂(まいない)が蠢いていたんでございますよ、、、、 つづく 大家の儀左衛門