カテゴリ:映画(邦画)
太平洋戦争末期、敗戦の色濃くなった軍の参謀は特攻隊を出撃させることを決める。敵にぎりぎりまで粘り強く戦い抜き最大限のダメージを与え同時に大和魂を見せつける為でもあった。特攻隊は「志願者を募る」という形を借りてはいるものの、内実国の為に命を捨てろという「命令」でもあった。実際には特攻隊志願者の中には何の迷いもなく一途に国のために命を投げうつこともいとわない青年から、一度は決断したものの迷いながら死を恐れながら、家族や恋人のために後ろ髪を引かれるもの、朝鮮出身の志願兵まで様々であった。
鹿児島の知覧で陸軍省指定食堂を営む鳥濱トメは、そんな様々な心情の若者達を母親のように見守り出撃までを断腸の思いで見届ける。特攻隊員達はそんなトメを母のように慕っていた。 特攻隊の出撃シーンは日米双方の目線からとらえてリアルに再現されていて迫力あり息をのんだ。ハンカチを握り締め思わず座席で身を避けてしまうところもあった。 音楽の使い方が印象的。極力過剰なサントラは省いたように思う。朝鮮人志願兵の歌うアリランや同期の桜、軍歌、特攻志願兵の吹くハーモニカ等が効果的に使われている。富屋食堂の居間の柱時計音までもこの時代の理不尽さ無念さを表現してるように思った。観る者の心を打つ。 印象に残ったシーンがいろいろある。的場浩司扮する関大尉が軍上層部より特攻隊第一陣として出撃要請されたところ。関大尉が無言の圧力を掛けられ、作戦遂行する決意をするまでの心の葛藤を捉えたわずか何十秒かのシーン。頭を掻きむしり個人的感情を押さえ込まねばならない複雑な彼の心情が上手く表現され真に迫っていた。 窪塚洋介扮する坂東勝次が出撃前「隼」に乗り込む時、最期の見送りに来た幼い弟や妹父に見せた後姿での阿波踊り。あれが彼の遺してゆく家族に対する最高の愛情表現だったんだろう。その苦しい心境を思うと思わず涙が頬を流れた。 筒井道隆扮する田端は、戦況を冷静にとらえ志願したものの特攻存在意義に疑問を持ちつつ、充分に整備されない「隼」をあてがわれそれにより何度も突撃中止して戻り非難される難しく不憫な役を好演。 河合惣一(←こんな漢字かな?自信なし)は子供っぽさの残る青年だが、蛍に自分の魂を重ねてトメに命を託す。母親の愛情を存分に受けて育ったのであろう。真っ直ぐな心の持ち主であるこの役を上手く演じていた。 また女優陣も良かった。多部未華子・中越典子など清純派女優達の演技にくどさがなくさらりと描かれているので、余計にその想いがこめられているように感じ素直に入れた。岸惠子の鹿児島弁の語りもいい。 以前子供と(夏休みの宿題だったと思うが)特攻隊に関する資料を集めたことがある。出撃前の血書や遺書とも思える手紙に書かれた特攻隊の心情が痛々しく胸を裂かれた。死を間近に感じた人間の無念さが伝わる。人生の意味を否が応でも問われたせいだろうか?二十歳そこそこの若者が遺した手紙の内容は実年齢よりもはるかに老成している印象があった。今の若者とは違う何かを感じた。あの当時、数多くの未来ある青年達が特攻を志願することが最善と思わされた異様な状況をよく理解しないといけないと思う。 敗戦後の日本の姿や戦争・特攻隊の存在意義を問われたことまで映画では後を追って描いている。人生途中でたった一つしかない命を捨て国を守ろうとした青年達の姿に胸を打たれた。時代に翻弄され自分の人生を貫けなかった先人の想いを忘れてはいけないと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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