カテゴリ:安部公房
安部公房の「砂の女」読了。 砂の世界に閉じ込められてしまった、ある男の不条理な生涯を、描いた作品。 ~教師である主人公の男が、日常生活の一時の逃避や、些細な功名心の為に出掛けた昆虫採集の旅路中、砂丘地帯のとある集落に迷い込んでしまう。そこで、一夜の宿として彼に宛がわれた家は、奇妙にも砂の穴の底に建てられた家であった。そこに住む女は、家を守るために、夜毎降り積もる砂を取り除く作業を行っている。男は、周囲の状況から、自分がこの砂の世界に閉じ込められ逃げられない状況に陥れられたことに気付き、愕然とする。~ 世界各国で翻訳され、いまだに人気の高い作品というのが、よく分かった。 資本主義国だけでなく、共産主義社会での人気が、特に高いというのも頷ける。 囚われの身となって、村社会の為に自己の利益や夢などかなぐり捨て、がむしゃらに働くことのみ強要される男の世界は、共産主義社会における底辺の労働者の姿を彷彿させる。 与えられた仕事(ここでは、砂の掻き出し作業を意味する)をこなす代わりに、最低限の生活の保障は与えられる。しかし、個人の欲望や夢・自由はないに等しい生活。村社会の連帯意識は強固で、夜逃げも許されない世界だ。 そんな中で、男は、逃げ出すためにあらゆる工夫と努力をする。 砂の家に住む女とのやりとりや、砂にまみれた厳しい暮らしぶり、村の人々との関係は、とても奇妙。泥沼にはまりこんで、もがけばもがく程、抜け出せないような窮屈な世界である。 繊細で硬質な文章の中に、ちりばめられた主人公の回想・妄想・挿話が、豊かで独創的な想像力でもって描かれる。パンチが効いていて興味深い。自分の人生をどう捉え、これから生きていくべきか、読者なりに嫌でも考えさせられる内容になっている。 主人公が逃げ出したいと思っている砂の世界も、彼が逃亡し帰りたいと願う世界もたいして違いがないことに、徐々に気付かされる。 常に流動し定まることを知らない砂の性質・描写は、論理的かつ視覚的で、あまりに見事で圧倒された。読者は、砂で口の中までジャリジャリするような違和感を感じながら、閉じ込められた男の不条理と恐怖を体験させられる。 最後の2・3ページで男の選んだ道が、読者に分かるようになっている。彼の選択が、また一層興味深い。 罰がなければ、逃げるたのしみもない~ ~鳥のように飛び立ちたいと願う自由もあれば、巣ごもって、誰からも邪魔されまいと思う自由もある。 初めて読んだ安部公房作品だったが、読みやすく面白くて一気に読んでしまった。他の作品ももっと読んでみたいと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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