カテゴリ:南木佳士
心を病んだ医者が、友人の開業する海沿いの病院で、その家族と過ごす内に徐々に癒されてゆく情景が、朴訥な印象の語り口で綴られる。 主人公に、自分の姿を投影したと思われる私小説だった。 人の命を預かり、病を癒す手助けをする医者が、実はいかに無力であるかという一面を見たように思う。治る見込みの無い末期がん患者や、病む人の繊細な心理に寄り添って、治療を行っていく臨床医の重圧が、文面からずっしりと伝わってくる。 最初の方で、発病の経緯を綴っているが、コントロール出来ない自分への歯痒さ、その脱力感まで吐露する作業は、辛くなかったのだろうか? 切り捨てたくなる自己と真正面に向き合おうとする姿は、痛々しい。著者の崩れそうになる繊細な精神も見てとれたが、それと同時に、作家としての彼の図太さ・逞しさも感じ取れる。 友人家族も、それぞれがいろいろな悩みを抱えている。 人は、生活信条や人生航路の舵取りの多くを、育った環境や家族の思想に影響されながら生きていることを改めて感じる。それを思うと、自分の子育てにも自ずと身が引き締まるような気がした。 娘の千絵ちゃんとの会話が、清々しい清涼剤のよう。そのせいか読後感は、穏やかで爽やかだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 31, 2008 07:59:02 PM
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