|
テーマ:■今日のシアワセ■(578)
カテゴリ:*** 神話・お話 ***
私の好きな話。
2人の重病の男が、同じ病室に寝ていました。 お互いに読書も、テレビも、起き上がることも許されていませんでした。 しかしお互いの声だけは、届く距離にありました。 ふたりは何時間も話し合います。 一方の患者は、その部屋唯一の窓の傍に寝かされていました。 窓の見える患者は、窓の見えない患者に、外の様子を語ります。 窓の外には大きな公園があり、綺麗な花が咲き乱れているようでした。 若い恋人達の楽しげな様子、公園でボール遊びをする子供達。 時には公園に犬が落ちて、大騒ぎになることもありました。 公園のテニスコートの白熱する試合には、手に汗握りました。 そして男の好きなヨットの模型で遊ぶ子供たちまでいました。 窓の見えない患者にとって、この話は一日の最大の楽しみ。 いえ、この話のために生きていると言っても良いくらいでした。 ある日、公園のお祭りの屋台の様子を聞きながら、窓の見えない患者は思います。 なぜ自分は窓の傍ではないのだろう。不公平ではないか。 その思いは日毎に強まり、ついには窓際の男への恨みに変わります。 ある夜、聞こえる窓際の男の苦しそうな声。 必死で看護婦を呼ぶボタンを探しているようですが、手が届かない様子でした。 しかし窓の見えない男は、何もせず、時が過ぎるのを待ちました。 翌朝、窓際の男の亡骸が、運び出されてゆきました。 残された男は看護婦に頼みます。 窓際に私を移してください。 看護婦が去り、窓際に移された男はひとりになりました。 苦しい思いをして、男はやっと身を起こし、窓の方を見やりました。 そこにあったのは、窓の外に立ちはだかる、裸のコンクリートの壁だけでした。 全てを失いたいなら簡単です。 必要なもの。 それは、人の善意への裏切りだけ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[*** 神話・お話 ***] カテゴリの最新記事
|