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カテゴリ:読書
先日来、初めて読んだり、改めて読んだりした松本清張「傑作短篇集」シリーズ6冊の中から私なりに興味深かったもの、面白かったものを、今後何編か取り上げるつもりだ。 今日はその(一)の中の第一作目の 或る「小倉日記」伝 について少し書いてみようと思う。 この小説は昭和27年「三田文学」に発表され、第28回芥川賞を受賞した清張の出世作と言われる。 主人公・田上耕作は実在の人物だと解説の平野謙は言っているが、その田上耕作が森鴎外が旧陸軍第12師団軍医長として在職した小倉時代の足跡を追いかけ原稿としていくことに情熱を傾けている。 田上耕作は生まれながらに変わった風貌をしていた。歩行も不自由で気の毒な境遇にあった。 しかし、頭脳は明晰で、その肉体と精神のアンバランスが彼に不幸をもたらしたのではないかと思う。 だた彼はそういう境遇に身を委ねるようなことはせず、なんとかそこから這い上がろうとする。 だが、遂にそこから這い上がることができなかったというところに悲劇性を感じる。 あらすじは、森鴎外によって「てんびんや」という幼児の記憶の由来を学び、そこで森鴎外の文学に親しむようになり遂には、鴎外のそれまで明らかにされていない小倉時代の足跡を調査しようと思い立ち実行する。しかし業半ばにして「てんびんや」の鈴の音を幻聴しながら逝ってしまう。 まさに田上耕作の報われることない生涯であった。 清張作品の底流に流れる暗い運命を示唆するようなものが多いといわれるが、この初期の作品にもその萌芽が見られるように思う。 上の写真はネットから拝借した北九州市小倉北区鍛冶町にある、「森鴎外旧居」。 鴎外は37歳の時、軍医として小倉に赴任し約3年間滞在する。 その3年間のうち、前半をここで過ごした。 因みに私は同じ小倉北区のこの鴎外旧居から数百メートルの京町の銀行独身寮に約3年住んだが、現在はビジネスホテルになっている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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