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Mizumizuのライフスタイル・ブログ

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2008.09.15
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カテゴリ:Movie
信憑性の薄い神話がまことしやかに語られるのは、歴史上の人物になった有名人にはありがちだが、「カルティエのトリニティリングはジャン・コクトーがレイモン・ラディゲに贈るためにデザインした(あるいは、デザインさせた)」という逸話は、その最たるものだろう。

このエピソードがあたかも既成事実のように書かれているサイトがもっとも多いのは実は日本語サイト。フランス語や英語のサイトでは、あまり見ない。

主にカルティエのトリニティリングを扱うショップサイトで、表現に多少の違いはあれど、

「トリニティリングは、ジャン・コクトーがレーモン・ラディゲ(「愛する人」とぼやかしているサイトも多い)に贈るために、『この世に存在しないリングを』と注文を出してカルティエに制作させた」

というように書かれている。ちょっと前までは「コクトーがデザインした」という話が多く流布されていたのだが、それはさすがにありえないとわかってきたらしく、最近では「ラディゲのために、コクトーがカルティエに制作させた」説が幅を利かせている。

さらにそれを見た(のだろう)、素人のブログでも、この逸話は爆発的に広まっている。カルティエのトリニティリングといえば、「コクトーが恋人のラディゲに贈るために作らせたんですって! 知ってました?」「コクトーがラディゲに贈ったもので、若くして亡くなったらラディゲの分も合わせて2つ、晩年まで肌身離さずつけていたのは有名な話ですよね!」などと書いてあるブログもある。

「有名な話ですよね」なんて言われると、よく知らなくてもついつい、「そうそう、知ってる知ってる」などと相槌を打ちたくなってしまうようなものだが、このエピソード自体、Mizumizuはそもそも「ほとんどありえない話」だと思っている。

ブランドにまつわる話は、もちろんそのブランドの公式サイトを読むのがいい。カルティエ社はトリニティリングの誕生についてどう説明しているのだろう?

www.cartier.com/en/Creation,B4038800,,Trinity%20de%20Cartier-Rings

↑ここの英語の説明を読んでみると、プラチナ+レッドゴールド+イエローゴールドからなる3連のリングに関する最初の資料があるのが1924年。3色ゴールド(「3色」としか書いていないが、つまりプラチナのかわりにホワイトゴールドを使ったということだろう)の3連リングについての記録が残っているのが1925年。ジャン・コクトーがはめていたことは書かれている(もちろん、それは事実だからだ)。コクトーという人が1920年代の時代の寵児であったこと、彼がトリニティリングのフォルムを非常に気に入ったこと、そしてコクトーといえばトリニティリングというイメージが広まったこと、それによってこの指輪のカルト的な人気が高まったことなども紹介されている。

だが、「コクトーが制作を依頼した」なんてことは一言も書かれていない。

そもそもラディゲが亡くなったのが1923年。トリニティリングの発表が1924年。もし、日本のネット上にはびこる神話が事実だとしたら、1923年以前にコクトーがカルティエに制作を依頼し、できあがったのがラディゲの死の翌年だったということになる。

ナルホド、まあそれはあるかもしれない。だが、それならば、コクトーは1924年からこのトリニティリングを、贈れなかったラディゲの分も含めて2人分はめていなくてはおかしい。

だが、若いころのコクトーの写真を見ると、トリニティリングと組み合わせて小指にはめているのは、別のリングなのだ。

別のリングをするコクトー
ネットでは見にくいかもしれないが、これが若いころのコクトーのはめていた指輪で、ボリュームのある平べったいリング、その上にトリニティリングを1つ組み合わせてはめている。

若いころはほとんどこのコンビネーションだ。
2つの指輪をはめたコクトーとマレー
これはジャン・マレーと暮らし始めて間もないころの写真だが、上の写真と同じく、平べったいリングの上にトリニティリングを1つ計2つはめている。しかも、この写真では右手の小指。

では、コクトーがいつもいつも指輪をはめていたのかというと、そうではない。
指輪をしていないコクトーとマレー
これは同じくジャン・マレーととったスナップだが、この写真では指輪はなし。

コクトーがいつも指輪をしていたわけではないことは、この写真からも明らかだが、他の動画をみてもコクトーはわりあい「作業をするとき」は指輪をはめていない。指輪をするのは、外出するとき、ある程度構えた写真を撮るときなのだ。

上のマレーとの2つの写真の違いは、指輪をはめたほうは写真の構図の緊張感、くっきりしたライティングから判断して、プロの写真家による撮影、指輪のないほうは、日常のスナップに近いということだろう。

ラゲィゲの分と合わせて2つのトリニティリングを小指にはめていた、という伝説が真実なら、亡くなってからそれほど時間のたっていない若い時期になぜ「別の指輪」をはめているのか説明がつかない。コクトーはトリニティリングを取ったりはずしたりしていたし、つけるのも必ずしも左手ではなく、右手のこともあったのだ。こうしたことから考えると、小指の指輪はあくまでオシャレ用だった、というのが普通の結論だろう。

コクトーが2つのトリニティリングを小指にはめていたのは、髪の毛が白くなってから、つまり晩年なのだ。
最晩年の2つのトリニティリング
これが晩年のコクトーが小指にダブルではめていたトリニティリング。

www.youtube.com/watch?v=tlEcnuvMHiI

この動画のしょっぱなにも最晩年のコクトーがトリニティリングをダブルではめている様子が映っている。

コクトーの素描には、トリニティリングをはめた自身の指を描いたものも確かにあるが、たとえば1924年のドローイングでは…
1924コクトーの絵
このように指には何もない。この絵は「鳥刺しジャックの神秘」という一連の自画像のうちの1枚だが、これをコクトーが描いたのは、1924年の秋、11月ぐらいだ。もし、トリニティリングがラディゲのためにコクトーがわざわざ注文して制作されたものだったのなら、できたてホヤホヤのリングをこの自画像に描き入れたってよさそうなものだ。

ビュッフェの絵
こちらは1955年にベルナール・ビュッフェが描いたコクトー像の部分。これをみると左手の小指に1つだけトリニティリングが描かれているのがわかる。

つまり、コクトーがトリニティリングをはめたのは、1924年のこのリングの発表直後ということは考えにくく、かつはめ始めてからも、相当長い時期「1つだけ」しかつけていなかったということなのだ。

「最晩年のコクトー」がしばしば2つのトリニティリングをはめていたのは事実だが、やはり指輪をしていない写真もある。

晩年のコクトー
この写真や、その他の(YOU TUBEにある)動画からも、2つのトリニティリングをはめ始めた晩年も、作業中ははずしていることが多く、必ずしも「肌身離さず」つけていたわけではないことがわかる。

もう1つ、Mizumizuが「ラディゲのためのリングなわけないでしょ」と思うのは、リングのサイズだ。コクトーは常に小指にトリニティリングをはめており、2つともコクトーの小指にぴったりだ。きついぐらいぴっちりとはまっている。

めったにないぐらいヤセヤセのあのコクトーの、しかも小指ですよ。ラディゲの写真を見ると、コクトーほどには際立った痩身ではない。コクトーの小指にピッタリのリングがラディゲにはまるとは思えないし、そもそも、コクトー自身は小指にはめるのが好きだったにしても、愛する人に贈るのになんで自分の小指用にしかならない、相手にとっては明らかに小さすぎるリングを贈るのだ?

あの極細コクトーの小指にピッタリのリングをはめることのできる男性なんて…… それこそ『ロバと王女』のお姫様探しのごとし、だろう。

指輪を贈ろうとした相手がラディゲではなく、1932年にコクトーと交際し、妊娠した(と少なくともコクトーが信じた)ナタリー・パレのような女性だったとしても、サイズが果たしてあれで合うのか、なぜ上に挙げたマレーと出会って以降(1937年~)の写真で1つしかはめていないのか、といった疑問はやはり解けない。

さらに言えば、もしコクトーがラディゲに指輪のような通俗的なプレゼントをしていたのだとしたら、コクトーは後の最愛の人マレーにも同様のモノを何か贈っていてもおかしくない。ところが、コクトーがマレーに贈ったのは、マレーのために書いた自身のオリジナルの戯曲、自身の詩(これは第三者が読むことを前提としない、マレーのためだけに書いたラブレター的なものもあるし、『火災』のようにマレーに献上するつもりで書いたものもある)、晩年は「君の誕生日に何かプレゼントしたい。『存在困難』の原稿を贈らせてもらえますか」――つまり、コクトーは大量生産が可能な「モノ」ではなく、常に世界中で自分にしか贈れないたった1つのものを愛する人に捧げようとした人だったのだ。

マレーのほうは、初期のころの手袋屋の看板に始まり(このエピソードについてはの3月26日のエントリー参照)、スイス製の時計だとか、あるいは花だとか、とても「男の子らしい」プレゼントをコクトーにしている。

現存している写真から考えても、コクトーの性格から推測しても、トリニティリングはコクトーがラディゲのために作らせた、なんていうのは、とっても眉唾な話なのだ。

それがあたかも事実のように日本語のサイトに大量に書かれている。コクトーが、ルイ・カルティエに「愛する人のために、この世に存在しないリングを」(このフレーズは、Bunkamuraでのコクトー展での晩年の写真に添えられたものだったらしい)と言ったなんて、「講釈師、見てきたような嘘を言い」の典型だろう。

では、なぜ最晩年のコクトーがトリニティリングをダブルでつけていたのだろう?

むろん立証は不可能だが、取ったりはめたりを繰り返していたことを考えると…


ある日のコクトー「あれっ? トリニティリングが見当たらない?」

しばらく捜して「やっぱないな~。失くしたかな。仕方ない、もう1つ買おうっと」

買った後に「あ、見つかった」

それじゃってことで「2つ一緒にはめちゃおうっと」


と、案外この程度の話だったのかもしれない。

ちなみに、コクトーは1955年にアカデミー・フランセーズ会員に選出された際、会員の正装の一部である剣を、自らデザインし、カルティエに制作させている。これは神話や伝説ではない事実。

(追記)コクトー作品は、Bunkamuraザ・ミュージアム発行のカタログ
Le Monde de JEAN COCTEAUから拝借しました。





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最終更新日  2020.07.05 00:30:43



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