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<きのうから>
ただ、浅田選手に対する最大の不安は、ルッツです。昨季からエッジ違反を厳しく減点するようになりましたが、このルール改正でも、日本スケート連盟の対応は非常ににぶかったですね。昨季始まったばかりのときは、「実際に試合をやってみないとどのくらい減点されるのかわからない」などと発言し、いざ減点されはじめると、予想以上の厳しさに驚いてる始末。2007年11月5日の毎日新聞の記事からの引用です。 国際連盟ジャッジの加藤真弓・日本連盟理事は 「着氷の回転不足の確認はビデオの再生ができるが、踏み切りの確認はできない。よっぽどじゃないと マークは付かないのに」と言った。 (中略) 日本連盟関係者は世界選手権女子で「日本の2人がワンツー を占めたため、厳しくなった“政治的”な側面もあると思う」と日本つぶしに警戒感を強めている。 連盟も、ルール改正に強すぎる日本女子をサゲたいという意図があるのは、もちろんわかっているんですね。いつの時代も、ルールを決めるのは「より数の多い勢力」なんです。いくらある国で選手が強くても、政治力のない国は不利なルールで戦うことになります。 さて、このエッジ違反の減点をもっとも警戒したのは、モロゾフだったんですね。モロゾフはシーズン前から、徹底して安藤選手に矯正をさせました。「容赦なく減点してくる」とわかっていたんでしょう。それがモロゾフのしたたかさです。「よっぽどじゃないと…」なんて甘くは考えていなかったんです。それで昨季は安藤選手はジャンプが乱れまくり。それでも矯正は続けました。 一方の浅田選手のコーチのアルトゥニアンは、「この突然のルール改正はあまりにアンフェア」と抗議。浅田選手は当初「入り方をかえて(それなりに)対応した」つもりだったんですが、入り方ではなく、やはり踏み切り時のエッジを厳しく見られて徹底的に減点され、非常に不利な状況に立たされました。あそこで外堀を埋められた状況だったんですね。それを実力で突破して、エッジ減点されながらも、世界一の点を出して世界女王になったんです。しかも、3Aで跳ぶ前にコケて、マイナス点になりながらです。いかにすごいかわかりますか? 「相手のミスに助けられて勝っている」なんて、メディアの論評を見ると腹が立ちますね。浅田選手に対抗するためには、難度の高いジャンプ構成にしなければならない、そうすると実力を超えたものになり、ミスが出る。それだけの話です。 さて、昨季の2人のコーチの対応は、昨季は浅田選手に吉と出て、安藤選手には凶と出ました。では、今季は? 世界選手権では安藤選手はショートでフリップを見事に決めて加点をもらいました(フリーでは回避)が、浅田選手はルッツで失敗しました(フリーでは回避)。 では、来季は? 安藤選手のフリップはより安定してくると思います。ただ、懸念もあって、かなりエッジはフラットなんですね。アウトに入ってないのは間違いないですが、かなり中立に近い。「!」マークは、not obvious、つまり「エッジ遣いがそれほど明確でない」場合にもつけられるから、「!」がついてしまう可能性もあります。ただ、「E」はないでしょう。キム選手のフリップはかなり疑わしく、アウトに入って見えますので、今後も「!」、場合によっては「E」(今季一度だけ出ましたね)もあるかもしれません。 エッジ判定は昨季、ルッツが正確なキム選手には有利でしたが、彼女のフリップはずっと疑わしかったんです。昨季Mizumizuは日本スケート連盟と国際スケート連盟に、そのことについて「もっと正確に、公平にジャッジングすべき。もしインで踏み切るのがフリップの定義とするなら、キム選手のフリップもエッジ違反ではないか」とメールしました。 そしたら、今季になって「!」が導入され、エッジ違反の範囲が広がりました。当初キム選手にはマークはつきませんでしたが、あまりクレームがくるのか(笑)、とうとうマークがつき、今年に入ってからは、4大陸、世界選手権でも!判定ですね。キム選手が突出して強くなったので、ここらでサゲようと思ったのかもしれませんが、来季はこれがキム選手の不安材料です。現在でも!がつくと、加点が抑制されます。あの最大の武器で加点が抑制される、あるいはつかなくなるとキム選手には痛いです。 読者から、キム選手は「来季は3Lz+3Tを跳ぶ」と発言したという情報をいただきました。つまり、今までフリップにつけていた3Tをルッツにつけるということです。実はこれは、世界選手権の前に韓国紙が伝えていて、「ショートでフリップに3Tをつけられなかった場合は、次のルッツに3Tをつけるリカバリー構成を用意している」と書いてました。 連続ジャンプは単純に基礎点の足し算ですから、フリップにつけようと、ルッツにつけようと点は同じです。ジャンプ構成をあげるわけではなく変更するというだけ。小塚選手は全日本のショートでルッツからの3Tがつけられなかったので、すばやくフリップにつけましたね。ちょっと回転不足気味で、完璧ではありませしたが認定はされました。 2Aから3ループにかえるなら基礎点は上がりますが、フリップにつけていた3Tをルッツにつけても点数は変わりません。難度から言えばルッツにつけるほうが難しいですが、個人差もあり、基本的には本人が跳びやすいかどうか。もし本気でキム選手が3F+3Tから3Lz+3Tへの転換を考えているとすれば、それは、フリップへのwrong edge違反への対応ではないでしょうか。世界女王になったら足をひっぱられることは、オーサーも予想してるでしょうし。 以前も書きましたが、キム選手は基本的にはアウトの踏み切りのが得意なんですね。フリップを踏み切るとき、その前の軌道ではインに入っていたエッジが、タメてる間に中立に戻ってきてしまいます。だから、連続ジャンプに不安があると、どうしてもタメが長くなり、アウトに「より長く」入ってしまうのではないかと。韓国のジャッジもそのようなことを言っていたと思います。ただ、テレビで見てる分には、いつもあの跳び方で大差なく見えるんですが(苦笑)、なにせテレビ画面では、カメラの方向によってずいぶん違って見えるので、Eが適当なのか!が適当なのか、Mizumizuにはわかりません。 だから、今のルッツとフリップを入れ替えて、フリップの負担を減らしてエッジ違反を取られないようにしようということかもしれません。ジャッジから踏み切りの足が見にく~い場所でフリップ跳んだりね(←ホントにやりそう・苦笑)。 ただ、単独にすれば必ずフリップをインで踏み切れるかと聞かれると… 負担のかかる連続ジャンプにするからタメが長くなり、アウトに入りがちなのか、そもそもクセで単独ジャンプでもそうなってしまうのかは、見たことないのでわからないですね。普通は、踏み切りというのはその人のクセなので、単独ジャンプでも跳びやすいほうに入ってしまうと思います。 浅田選手は2試合連続でルッツを失敗した――つまりは今、ルッツが跳べなくなってしまった状態ですから、「アタシは、簡単にルッツからの3Tが跳べるの! それだけジャンプの力はついてきたの!」と、ジャンプでの優位性を強調して、さらにどん底に落とす意図があるかもしれません。 キム選手のジャンプは、現実には劣化が始まっています。ループは入らなくなった。ルッツやセカンドの3Tが回転不足気味になる。あの状態から、19歳という難しい時期に入る来季に、特にフリーでのジャンプの確率をさらにあげるのは大変だと思います。 EXで試合で失敗したサルコウを「跳べる」ことを見せたあとに、ダブルアクセルばっかりやってるのを見てもわかりますね。しかも失敗しちゃいました。 しかし、浅田選手の一番痛いところをついてくるとは、さすがにあのオネエが後ろにいるだけあります(笑)。浅田選手はもともとエッジでの厳しい減点が始まる前から、ルッツを連続ジャンプにすることはできない(やろうとしない?)選手でした。そのかわり、2Aにも3Aにもセカンドジャンプをつけられるし、フリップはフリーで2度連続ジャンプにしてもイケる選手ので、やる必要がないといえばそうですが。 チャンも世界選手権の試合後に、カナダのメディアを使ってジュベールにさかんにプレッシャーかけてるし。カナダ陣営の作戦でしょうね。どこまで汚いのやら(呆)。キム選手がいろいろ仕掛けてくれるので、結果としてロシェット選手は、日本でのイメージも損なわず、得してますね。 こういう発言にある種のウラがあるとしても、ほっとけばいいんですよね。キム選手が連続ジャンプを組み替えようと、浅田選手の課題は変わりません。人間は気持ちが弱くなると、いろいろな「揺さぶり」に動揺するようになります。凡人は、悪意を向けられるとすぐに感情的になって、自分が泥沼に陥るんですが、浅田選手は凡人ではありません。天才です。 といっても、あまりに浅田選手を取り巻く環境は商業主義のご都合主義ですから、精神的な支柱になってもらうためにも、フィギュアスケートの世界の汚い部分をよく知っているタラソワのそばに、なるたけいさせてあげたいですね。ライバルが何を仕掛けてこようと、ジャッジが公正でなかろうと、それは選手にはどうにもできないことですし、選手は自分の課題を克服することに集中すればいいんですね。 ただ、これは私見ですが、実際にはキム選手の連続ジャンプの組み換えは難しいと思います。3Lz+3Tだけなら問題なくできても、それを入れてまたプログラムをまとめるというのは別問題になりますからね。それとフリップのエッジのクセ。単独にすればキチンとインで跳べるのか。結局は、その兼ね合いで、連続ジャンプを組み替えるか否か、オーサーが判断するでしょうし、来季の初戦を見てみないとわかりませんね。 「!」に対する加点ですが、ルールでは「GOEはジャッジの自由裁量で」とあるので、加点しても不正ではありません。ただ、常識的には「Eは減点しなければいけない。!はジャッジの自由裁量にまかせる」とあれば、!は「減点してもしなくてもいい」と読むのではないでしょうか。普通は「加点もできる」とは考えないと思います。今のルールは減点主義なので、2連続ジャンプをやって、セカンドの着氷が乱れれば、単独ジャンプより点が低くなるというバカみたいなことが起こります。減点至上主義ともいえますね。その原則論でいくなら、いかにキム選手の3F+3Tが素晴らしい質をもとうと、エッジに「!」があるなら、加点をするのは、少なくともおかしいです。 「!」がついた場合は、加点してはならない。ただし、減点するか否かはジャッジの裁量にまかせる――このようにガイドラインを明確化すべきですね。 「2Aの挿入回数を2回とし、!マークは加点なし」――これはMizumizuがキム選手をサゲるために、考え出したちょっとしたルール改正です。それぞれにもっともらしい理屈がついています。「2Aは点数上、3回転扱いのジャンプだから3回転同様フリーの挿入回数を2度に。そうやってジャンプの偏りをなくし、選手のバランスのよいジャンプ力を見るようにしましょう」「現在!マークには明確な規定がなく、加点される選手と減点される選手が出て不公平です。ガイドラインを明確にして、加点はなし、ただし減点するかしないかはジャッジの裁量にまかせましょう」。 これをやるだけで、キム選手にはとても痛いんです。今の構成でさえ、サルコウ失敗するかルッツが回転不足になるのに、これで2Aが2度となると、どうしてもループを入れないといけない。瞬時の判断で3Sを2Sにしたり、3Loを2Loにしたりできないキム選手にはプレッシャーがかかります。 ルール改正とはこうやって、もっともらしい理由をくっつけて、強い選手を弱くしたり、弱い選手を強くしたりできるんですね。あとは政治力です。 さて、浅田選手のルッツです。 <続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.04.07 00:47:18
[Figure Skating(2008-2009)] カテゴリの最新記事
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