「仏のAI立国宣言 何のための人工知能か、日本も示せ」国立情報学研究所教授・新井紀子氏筆・18日朝日新聞・「新井紀子のメディア私評」欄
私:フランスのマクロン大統領は3月末、世界中からAI分野の有識者を招き意見交換会とシンポジウムを開催し、フランスを「AI立国」とすると宣言。 2022年までに15億ユーロをAI分野に投資し、規制緩和を進める。 新井紀子氏は、このフランスの動向をAI分野で、地政学的な変化が起きようとしていると指摘。 すでに、ドイツは早々に、ビッグデータやAIを活用することで製造業の革新を目指す国家プロジェクトの「インダストリー4.0」を開始。 日本でも各省が競ってAI関連のプロジェクトに着手したが、それでも、米国や中国との距離は縮まるどころかますます水をあけられている。 A氏:ところが、新井氏が、フランスの意見交換会が開かれるエリゼ宮に到着したら出席者の約半数が女性なのに驚いたという。 女性研究者は1割程度といわれるAIの会合では極めて異例。 そして、「破壊兵器としての数学 ビッグデータはいかに不平等を助長し民主主義を脅かすか」の著者キャシー・オニールや、データの匿名化に精通したハーバード大学のラタニア・スウィーニーが含まれていた。 私:マクロン大統領は、「AIの影響を受ける人々は『私』のような人(白人男性で40代)だけではない。すべての人だ。AIがどうあるべきかの議論には多様性が不可欠だ」という。 マクロン大統領のAIに対する姿勢が違うね。 「新技術が登場する時には心配する人は必ずいる。電話やテレビが登場したときもそうだが、何の問題もなかった。AIも同じだ」と楽観論を展開するヤン・ルカンに対し、マクロン大統領は「これまでの技術は国民国家という枠の中で管理できた。AIとビッグデータは違う。圧倒的な寡占状況があり、富の再分配が行われていない。フランスが育成した有能な人材がシリコンバレーに流出しても、フランスに税金は支払われない」と厳しく指摘。 A氏:アメリカと中国でブームになると、日本は慌ててAIに手を出したが、「何のため」か、はっきりしない。 夏目漱石そっくりのロボットを作ってみたり、小説を書かせてみたりと、よく言えば百花繚乱悪く言えば迷走気味で、メディアも、AIと聞けば何でも飛びつく状況。 フランスは違い、AIというグローバルゲームのルールを変えるために乗り出してきた。 私:最後発のフランスにルールを変えられるのか。 マクロン大統領のAIアドバイザーを務めるのは数学者のセドリック・ビラニ氏で、氏は、法学者や哲学者も連係して、アルゴリズムによる判断によって引き起こされ得る深刻な人権侵害、AIの誤認識による事故の責任の所在、世界中から最高の頭脳を吸引するシリコンバレーの「教育ただ乗り」問題を鋭く指摘し、巨大なIT企業の急所を握り、「データとアルゴリズムの透明性と正当な利用のための共有」という錦の御旗を掲げながら、同時に投資を呼び込む作戦。 最初の一手は、5月に施行されるEU一般データ保護規則になることだろう。 ヨーロッパでは哲学も倫理学も黴の生えた教養ではなく、自らが望む民主主義と資本主義のルールを通すための現役バリバリの武器なのだ。 振り返って、我が国はどうか。 哲学者・森岡正博氏寄稿の朝日新聞1月22日の「AIは哲学できるか」と題した記事で、森岡氏が「人間の研究者が『人工知能カント』に向かっていろいろ質問をして、その答えを分析することがカント研究者の仕事になると私は予想する」とあるが、これに対して、新井氏は、「これでは、日本の哲学者の仕事は風前の灯と言わざるを得ない」と厳しい。 この森岡氏の寄稿文をこのブログでとりあげようとしたが、どうもピンとこなかたのでやめた経緯があるね。