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投資の余白に。。。

投資の余白に。。。

March 3, 2011
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カテゴリ:自叙伝
初めて訪れる外国の街で恋人と再会する。なんてロマンティックな瞬間であり展開かと思うだろう。

だがミュンヘン駅前で半年ぶりにKと再会したとき、最初に感じたのは落胆だった。「はるばるミュンヘンまで来てみたけれど、この娘のことはやっぱりあまり好きじゃないな」と思ってしまったのだ。

人なつっこい笑顔で迎えてくれたら印象は違っていたかもしれない。彼女はすでにノイローゼが始まっていたのか、周囲に対して萎縮しているような感じだった。はるばる来たのにその仏頂面はなんだよと気持ちが萎えてしまった。

恋はいつ生まれるのか考えることがある。思うのは、恋というのはある瞬間、突然に生まれるということだ。初対面だろうと、長い付き合いだろうとその事情に変わりはない。恋はよく火や炎にたとえられるが、気化したガソリンが一瞬で爆発するように、爆発的に着火する。そして着火した恋愛の持続には、あたりまえだが燃料がいる。燃料は常に供給され続けなければならない。その燃料とは、思い出を作ることであり、ささいな事柄でも包み隠すことなく伝え合って情報を共有しお互いの感情の襞を寄り添わせることだろう。

自営業を営む夫婦の仲がいいのは、いつも報告し相談しあっているし、常にお互いを必要としているからだ。

人間は理由なしに生きていくことはできない。誰かが自分を必要としている、誰かに愛されている、そういう「他人を鏡」としてはじめて生きていける。だから長期間会わないでいると、自分が相手にとって切実な存在ではない、いちばん大事な存在ではないということに気がついてしまうし、相手のこともどんどん遠くなっていく。遠距離恋愛が長続きしないのは、あたりまえだが日常的な交流や接触を欠くからだ。

恋はいろいろなきっかけで生まれる。同情から生まれることもあるし、尊敬が恋愛感情に転化することもある。親しくしているうちに心が通じるようになり理解しあえたという信頼感が生まれて運命的な相手だと思うようになることもある。好意を寄せてくれた相手を好きになる人も特に女性には多いようだ。

Kとの関係でいうと、同情に近い気持ちがあった。ヨーロッパに音楽留学をするのは実家が裕福なお嬢さんにほぼ限られる。しかし、彼女の実家はふつうの家庭で、娘を外国に出す余裕はなかった。そんな中で資金獲得のためのコンクールに挑戦する準備をしたり、ドイツ語を習ったり、アルバイトでせっせと資金を作っている彼女は健気で、少し不憫に思えた。一方、「歳の離れた男性フェチ」の彼女は、何度か会ううちにはっきりとぼくに好意を持つようになったのがわかった。好きになられて悪い気はしない。しかし出発までの時間は半年しかなかったし、彼女は卒業試験もあったりと忙しく、普通の恋人たちのようにデートを積み重ねる時間はなかった。

それでも、出発までの付き合いは濃密だったかもしれない。最終バスに乗り遅れた彼女をよく部屋まで送った。冬だったから、どこかへ出かけるということはなかったが、ひんぱんに会い、会わないときは電話で話した。会ったり話したりするのは楽しかったが、彼女に恋したわけではない。彼女はぼくに恋をしたように見えたが、ほんとうのところはそれだってわからない。卒業=留学という人生の転機を前に、孤独で不安でさびしかっただけかもしれない。恋する気持ちの裏側には、さびしさや不安から逃れたいという気持ちが張り付いていることが多いものだ。

結婚願望の強い人たちに共通して感じることがある。ひとりで生きることの不安ときちんと向き合ったことがない、という幼稚さである。逆の言い方をすれば、彼らは不安が人を偉大にするという割と単純な真実を知らない。偉大というと大げさだが、成長と言いかえるとわかりやすいかもしれない。偉大さの獲得に関心のない人は、自分自身の成長よりも精神の安定、つまり不安からの逃避をとる。

恋は、始まるのも一瞬だが終わるのも一瞬だ。どんなに激しく燃え上がった恋でも、長く続いた恋でも、炎が消えるように一瞬で終わる。そしてたいてい、二度と燃え上がることはない。

きっかけは恋がはじまるときと同様にさまざまだ。

大学時代の彼女への気持ちがさめたのは、長い汽車旅で帰宅する彼女を駅まで見送ったとき、彼女がキオスクで買った雑誌が「週刊女性」だったからだ。6時間以上の移動時間を週刊誌の読書で過ごそうというのは、無趣味だということだ。何か熱中している趣味があれば、ゴシップ雑誌にカネと時間を費やすなどということはありえない。

その後付き合った三越のエレベーターガールは、超のつく美人だったが、できたばかりのディズニーランド旅行のおみやげにペナントをくれた。ペナントをおみやげにあげたりもらったりするのは小学生、ぎりぎり中学生だと思っていたので、その幼稚さに呆れた。料理のヘタさも驚くほどだった。一度、おでんを作ってくれたが、かろうじて食べられなくはないといったシロモノで、「おでんの素」を使ってあれだけまずいおでんを作ることができるのは特異な才能と言いたいくらいだ。気持ちはありがたかったし嬉しかったが、そういう細かなことがひとつまたひとつと積み重なり臨界点を超えた。

思えば、Kと初めて会ったときも、数年後に再会したときも、笑顔はなかった。地方の港町で生まれ育った生粋の北海道女性なのに、都会の女のような警戒心や閉じた心を感じた。括弧つきにせよ恋人同士になったはずなのに、やはり久しぶりの再会にも笑顔がなかった。ミュンヘンには彼女に別れを告げるために来たが、この再会が新しい恋のはじまりになる可能性がなかったわけではない。だが再会の瞬間にその可能性は消えたと心の中で思った。恋は始まる前に終わった。

それなら予定通り行動するまでだ。ミュンヘンを拠点にベルリンやウィーンに行き、イタリアやスペインに寄ってパリに帰ろう。最後はどこかへ旅行に行き、別れさえ美しい思い出にしよう。





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最終更新日  March 4, 2011 02:36:46 PM
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