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カテゴリ:読書日記
2000年の「第9回開高健賞」を受賞した作品。1947年生まれの「社会不適応者」の著者が、サラリーマン生活からドロップアウトして西成や山谷のドヤで暮らし、労務者として働いた経験を綴ったもの。著者が30歳から50歳すぎまでの体験ということになろうか。
一読してわかるのは著者のインテリジェンスの高さ。経歴によれば公立大学の経済学部を卒業しているが、観察力の鋭さや深さにはうならされることが多い。佐野眞一という選考委員が「現代の方丈記」であると巻末で評しているが、なるほどそういうところがかなりある。 印象に残ったところを二カ所書き出してみる。 ひとつは「たかが衣食住の必要のために、どこかの飯場にもぐり込み、若い職人や経営者に追い廻されながら飼い殺しのような生活を送るよりも、真のホームレスとして食べ物を漁るだけで、一日の大半を図書館で読書三昧で過ごせるのだとすれば、私にはその方がはるかにマシな生活だと感じられる」という部分。 もう一カ所は「山谷住人の陋劣さは、一般市民社会の住人の陋劣さよりも洗練と多様性に欠け、はるかに単純で露骨」で「無知と卑屈と傲慢の三位一体を体現したような人々とは、腐るほど出会ってきた」が、「知識を手に入れる過程で身につく教養なるものは、なるほど重要なものなんだなということが、これら三位一体を体現した人々と接触するたびに痛感させられるのだった」という部分。 「たかが衣食住の必要のために」と賃労働を切り捨てるのもすごいが、後者は(経験から得たこととはいえ)卓見というべき。山谷の住人で人品ともに優れていると感じた人はみな知識と無縁な人々ではなかったという「観察」は貴重だ。 知識を手に入れようとする過程で身につく教養、それは自分の頭で考える力とほとんどイコールだと思うが、それこそが人間の品性を養うということだろう。知識そのものは処世の役(受験など)にはたつだろうが、それだけのこと。しかし教養はそれを持つ当人を救い、人類を救う力がある。 寄せ場に関するルポというと日雇労働者を弱者と見なし同情的な視点から書かれたものが多いが、この「体験記」は内省的で冷静な個人的「文学」とさえ言える。 著者は左右の全体主義やカルト宗教のようなものには生理的嫌悪感を抱くタイプのようだ。しかし、それでもビラ配りをする新左翼系活動家に対して「彼らの人格的なたたずまいには好感を抱かないわけにはいかない」と、どこまでもフェアである。 この本を読んで何も感じない人がいたら、文学には無縁であり、硬直した世界観を持つことを是としているということであり、この本はそうしたことを判定するリトマス試験紙のように使える。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
February 26, 2012 09:18:03 AM
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