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カテゴリ:百人一詩
「喪のある風景」
山之口 獏 うしろを振りむくと 親である 親のうしろがその親である その親のそのまたうしろがまたその親の親であるといふやうに 親の親の親ばつかりが むかしの奥へとつづいてゐる まへを見ると まへは子である 子のまへはその子である その子のそのまたまへはそのまた子の子であるといふやうに 子の子の子の子の子ばつかりが 空の彼方へ消えいるやうに 未来の涯へとつづいてゐる こんな景色のなかに 神のバトンが落ちてゐる 血にそまつた地球が落ちてゐる 「獏さん」 獏さん 獏さん あなたの没後九年たつて 沖縄はようやつと日本に復帰しました。 独立からはほど遠い帰還ではありますが ともかくも日本語の国にかへつてきたのです。 獏さんといへば、 ――るんぺんの詩人である。 ――びんぼうの詩人である。 ――借金の詩人である。 ――結婚と生活の詩人である。 ――地球の詩人である。 ――「獏」じやなく「僕」の詩人である。 そしてなによりも ――沖縄の詩人である。そう なのですが。 「喪のある風景」こそあなたの大傑作だと この僕は思ふのであります。 実際の獏さんは フーテンの寅さんを髣髴とさせる詩を書いて よそ様のお宅で背広すがたでかしこまつてゐるやうな 片岡鶴太郎を男前にしたやうな 紳士であつたりしたのでしたね。 獏さん 獏さん あなたはいまも この世であなたが書いた詩を あの世で推敲し推敲し推敲し推敲し推敲し あなたのうしろもそのうしろもそのまたうしろのうしろのうしろも あなたのまへもそのまへもそのまたまへのまへのまへも あなたの原稿で埋まつてゐたりするのでせうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.02.22 20:26:55
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