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カテゴリ:百人一詩
「ほほえみの意味」
谷川 俊太郎 昼間あんなにもひどい言葉で私を傷つけた唇が 今は意味のない呻きの形にひらかれている たたなずく屋根また屋根のそのいちいちの下で いったい何人の我々がこうしていることだろう あなたがあなたのことしか考えぬように 私も私のことしか考えることができないのに ひとりではつくれない未来のために こころごころに不安な計画をあたためている 焦点の定まらぬあなたの視線は私の肩をかすめ 雨もりのしみのある天井に向けられているが その先にある宇宙は人間には大きすぎる ちりばめられた星々に負けぬにぎやかさで 都会はいつまでもめざめているけれど もうまぎらわすものは何ひとつないと覚って 私たちはこの小さな部屋に戻ってきた 番う犬番う小鳥とのただひとつのちがいは お互いの頬に浮かぼうとするかすかなほほえみ その意味は問えば失われてしまうだろう 谷川俊太郎さんといえば、現代日本を代表する世界的に有名な詩人の一人です。最新詩集『minimal』は俳句を書けない谷川さんの短詩集の傑作で、中国語にも訳されました。 世間的には優等生的な印象の強い谷川さんですが、男女の愛をテーマにした作品も少なくなく、どれを選ぼうか迷った挙句、自分が愛してやまないこの詩をご紹介することにしました。金子さんの詩とはまた一味違う、孤独な魂の普遍性を感じ取っていただければ幸いです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.03.20 20:47:22
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