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カテゴリ:百人一詩
「悲歌」
金子光晴 恋愛が手術であらうとは おもひもかけないことだつた。 すつ裸で、僕は 手術台の上に横たはる。 水銀のやうな冷たさが 僕のからだをはしる。 恋愛が熱いなどとは なんたるたはごとぞ。 白いきものをきて メスをもつてるのも僕の分身。 しやがの花のやうに蒼ざめてふるへて、 ねてゐる方も、僕なのだ。 レントゲン写真には 恋人の姿がうつすりでてゐた。 ガラス板にのつてるのは 盲腸に似た血のかたまり。 不幸にも、僕にとつては 恋愛とは一つの腫瘤なのだ。 それを剔出しなければ 僕のからだは保てないのだ。 覆面の看護婦たちが 僕の血でたぷたぷゆれる 重さうなバケツを提げて 廊下を、どこかへ捨てにゆく。 ------------------ これも『大人になるまでに読みたい15歳の詩① 愛する』からですが、黒田喜夫に劣らず異色です。作者の恋愛観が述べられているとはいえ、これはどう見ても病院です。面白いのは、すべての連が起承転結になっていることでしょう。最後の二連が、この詩の白眉であります。 大人になるまでに読みたい15歳の詩 1 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2019.08.13 20:55:07
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