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カテゴリ:漫画
『キングダム』最新号の話である。
韓非子に対して李信は言う。 「善悪は立場によって変わる。善人も悪人に、悪人も善人になったりする。変わらないのは火だ。命の火と、思いの火だ。戦場では敵味方がお互いの正義をぶつけ合う。その正義を支えているのは、お互いの火だ。思いの火だ。勝った者は負けた者の火を飲みこんで、ますます大きくなっていく」 個人的に、先の日米戦争を思い出した。アメリカは日本を飲みこんで「正義」になったのだ。 日本もドイツやイタリアと組んだのがそもそも間違いだったのだが。 閑話休題。 韓非子は言う。 「それは美しい。だが、たとえ中華がひとつになろうとも、血で血を争う戦いが終わるわけではないぞ」 「そうだ。だからこそ、法治国家を作るんじゃないか」李信。 「人間は愚かだからな」 「愚かだが、悪じゃない。性悪だと断ずることは、諦めと一緒だ。性悪なら、どうしようもないから捨て置けばいい。でもそうじゃないだろ。法で国家や社会を運営していこうというのは、そこにより善きものへの意志があるからじゃないか。愚かな人間でも、こうすれば社会や国がもっとよくなる、そういう熱い思いがあるからこそ、おまえも一生懸命考えて法家の第一人者になったんだろ。より善きものへの希望の火、それこそ人の可能性を信じる、性善説の証拠じゃないか、韓非子」 実際に将軍と法家の間でこのような問答があったかどうか。それは知らない。なかなか興味深いネームだったが、ひとつだけ気になる点があった。それは、民主主義に非ざる法治国家は、容易に専制的な人治国家になってしまうということだ。古代・中世の法は、権力者を肥やし、民を縛るものであった。 近代法の要は言うまでもなく「憲法」。これは国民の権利の保証を謳った面もあるが、第一に権力者を縛るものだ。国を運営する者が権力を乱用し、暴走しないように定めるべきものが「憲法」である。 とはいっても、この原則は、「西側」でしか通用しない。そのことは、ロシアや中国や北朝鮮の現状を見れば一目瞭然だ。日本だって、改憲と言えば聞こえはいいが、権力者を縛るというより、国民の行動規範を定めた、いわば皇室典範の国民版なもののようになるおそれがたぶんにある。それくらいなら、今の憲法を後生大事に護った方がよっぽどましだ、とさえ思う。 まあ、先の問答が史実であれ創作であれ、興味深いことに相違はない。ただ作品の部隊は古代中国であり、今の中国ですら現代の衣を被った王朝国家でしかないことを思えば、登場人物たちの理想は理想として、法の運用の結果がどうなるかはすでに目に見えている。 したがって、読者としては、漫画の展開の面白さを追求するにとどめておいた方がよさそうである。 韓非子(第1冊) (岩波文庫) [ 金谷治 ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023.06.13 21:40:52
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