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Apr 19, 2008
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カテゴリ:伊庭求馬孤影剣
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 相手の矢が放たれると同時に、猪の吉の飛礫が空気を裂いた。矢が猪の吉

の躯の近くに突き刺さり、相手が潅木の中に崩れ落ちた。

「やったぜ」  猪の吉が会心の笑みを浮かべた。

 背後に敵の気配がする、猪の吉は窪地の中で身構えた。

 相手の気配が途切れた。  「野郎、隠れがやったな」

 猪の吉も、窪地で気配を絶った。長い対峙が続いたが、それは束の間の間で

ある。風が潅木の繁みを吹きぬけてゆく、「畜生め」  猪の吉の飛礫を握る

手が汗ばんでいる。突然、矢音が響き猪の吉の手からも飛礫が放たれた。

「危ないー」  猪の吉の背後から女の声がして柔らかな躯が覆いかぶさって

きた。 潅木の繁みから苦悶の声があがった。

「誰だ」  猪の吉が女の躯を押しのけ、驚きの声を洩らした。

「おめえは、お駒か?」  「鶯のお駒もどじを踏みましたよ」

 お駒が身を挺して猪の吉をかばったようだ、口の端から血が滴り流れている。

「お駒っ」  お駒の躯を抱き起こし愕然となった。

 お駒の背中に深々と矢が刺さっている。

「莫迦な、おいらを助ける為に矢を受けたのか」

「わたしは本気であんたに惚れてしまったのさ」

「確りしろ」  猪の吉が突き刺さった矢を根元から折った。

「あんた、後ろだよ」  お駒の声で猪の吉がふり向きざま飛礫を投じた。

「ぐっー」  苦悶の声をあげた男が弓矢を放り草叢に倒れこんだ。

 ものの見事に眉間を砕かれたのだ。猪の吉が鋭い眼差しで周囲を見つめた。

「あいつが最後ですよ」  「お駒、いま矢尻を抜いてやるからな」

「無駄ですよ、矢尻には毒が塗ってありますのさ」  「馬鹿野郎」

「猪さん、馬鹿はないでしょ。わたしは女ですよ」

「・・・・」  猪の吉が、お駒の躯を抱きかかえ言葉を失っていた。

「猪のさん、もう襲ってはこないよ」

「おめえは、おいらの後を付けていたのかえ」

「違いますよ、あんたを殺そうと潜んでいたのさ、でも駄目だった」

「今に旦那も来られる、きっと治してやるからな」

「優しいねー、わたしは駄目。こうして猪のさんに抱かれて死ねるなんて思いも

しませんでしたよ。くの一が男に惚れちゃあお終いですね」

 お駒の顔色が蒼白に変わってきた。

「六紋銭は終りですよ、教来石と国界橋に結界を張って待ち伏せしています。

死んじゃあ駄目ですよ」  「お駒っー」  猪の吉が絶叫した。

「莫迦だねえ・・・男が涙なんて流してさ」

 お駒が、震える指先で猪の吉の涙をなぞった。

「もう一度、あんたに抱かれたかったよ」

 最後の語尾がかすれ、がくっと猪の吉の胸に顔を埋めた。

「お駒っ」  猪の吉が絶叫しつつ、懸命にお駒の躯をゆすった。

「猪の吉、もう駄目だ」  いつの間にか求馬とお蘭が傍らに居た。

「旦那っ」  「猪さん、気をおとさないでね」

「師匠っ、お駒はおいらを助けようと身代わりになって死んでしまいやした」

 猪の吉が涙を流し、二人に訴えた。

「お駒を葬ってやれ、わしらは台ケ原の旅籠で待っておる」

 求馬が猪の吉の荷物を傍らに置いた。

「弔い合戦は教来石と国界橋じゃ、忘れるでない」

 求馬とお蘭が草叢を掻き分け、忍び足で戻って行った。

 見送った猪の吉は、なすべき事も忘れお駒の亡骸を抱きしめていた。


 台ケ原の旅籠で求馬とお蘭は、猪の吉の戻りを待っていた。

「風呂に行って参れ、猪の吉の心の傷が癒えるまで逗留いたす」

「はい」  お蘭の足音が消えた。求馬には猪の吉の心が痛いほど判る、

己も過去に二人の最愛の女性を失ってきた。

 その悲しみを忘れ去るのに数年の年月を要した、今はお蘭が居る。

 それが己の生き甲斐となっていた。

 求馬が冷や酒を呷った、せめて猪の吉が戻ったら飲みつぶれるまで付き合っ

てやる、そう思いながら苦い酒を飲んでいた。

「お先に頂いてきました」  お蘭が風呂を浴びそっと戻ってきた。

「お蘭っ」  「はいな」  「そちも猪の吉とお駒のために飲んでやれ」

 お蘭に湯呑みを渡し、そっと注いだ。お蘭が湯呑みに口をつけ、そっと求馬

の手を握りしめた。その暖かい感触が、いっそう無常感を募らせるのであった。

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Last updated  Apr 20, 2008 11:15:41 AM
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