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Oct 8, 2013
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「小栗上野介忠順」(104)


「あの艦艇じゃな」

 上野介が眼を輝かせ歩を進めている。眼前に初めて見る軍艦が投錨し、

数門の大砲が鈍い光を放って空を睨んでいる。

 三人は船腹に近づいた。

「小栗上野介さまと栗本安芸守さまじゃ、何方か艦長にお取次ぎ下され」

 塚本真彦が馬を寄せて叫んだ。その声に応じ日焼けした精悍な人物が

舷側に現れ、タラップを駆け降りて来た。

「拙者が副艦長の沢太郎左衛門に御座います。このような早いお着きとは

驚きに御座います、いざ艦内にご案内申し上げます」

 潮風に鍛えた声で、三人をタラップへと案内し艦上へと先導した。

 真っ先に上野介が甲板に降り立って感心の声を洩らした。

 水夫達が懸命に甲板を磨いていた。

「励んでおるの」

「日本初の遠洋航海に御座いました、何事も訓練と存じ精進して参りました」

 沢太郎左衛門が嬉しそうに破顔し、三人を艦長室へと導いた。

 艦長室の扉が開き潮風に焼け鼻髭を蓄えた人物が姿を現した。彼は西洋風

の軍服姿で、丁重に頭を下げた。

「拙者が艦長の榎本釜次郎に御座います」

 と自己紹介をした。

「わしが上野介じゃ。こちらが外国奉行の栗本安芸守殿で、そこに控えおる者

は、我が家の用人の塚本真彦じゃ」

 上野介の紹介に榎本釜次郎は丁重に会釈をし、挨拶を終えると艦長室へと

三人を案内した。艦長室は整然と片付けられ、海図と地球儀が眼をひいた。

 榎本が椅子に座るように促し、沢副長が榎本釜次郎の傍らに腰を据え、

二人の高官を物珍しく眺めている。

「国事多難な折、良くぞ戻って参ったな」

 上野介が口火をきった、彼の眼が例の如く剽悍に輝いている。

「香港で我が国の事情を聴き、心配いたしておりましたが、両奉行さまの

ご健吾な様子で安堵いたしました」

 榎本釜次郎が低いが良く通る声で、二人に帰国の報告をした。

「香港ではどんな風評がたっておる」

「幕府はもう駄目だと」

 上野介の問いに榎本釜次郎が簡潔に答えた。

「英国の差し金じゃな、わしは幕軍の再建を成しておる。その為に改革を進め、

軍事力の増強を計っておる」

「征長の役が失敗したと聞きましたが、真のことにございますか」

 傍らの沢太郎左衛門が塩辛声で口を挟んだ。

「見事に敗れた。それも薩摩と長州が手を握った所為じゃ。今も事ある度に

幕府の施策に文句をつけよる」

 安芸守が語気鋭く状勢を語った。

 榎本がキャビンから葡萄酒を取り出し、グラスに注ぎ眼光鋭く言葉を発した。

「我等も幕臣に御座います。帰国したからには幕軍再建に尽力いたします」

 簡潔に答え、沢太郎左衛門も無言で肯いた。

「よう申した、陸軍は仏国より軍事教練の士官を招聘し再建中じゃ。併し海軍

は未だに手つかずの状態じゃ」

 上野介が吐き捨てるように答えた。

「ご奉行、海軍はこの開陽丸を主力にして再建成され。世界でも最新鋭の軍艦

にございます」

 榎本釜次郎が透かさず応じた。

「艦長、艦内が見たい、案内を頼む」

「はっ、副長っ、ご奉行に艦内の検分をお願い申せ」

 榎本が白い歯を見せ命じた。

「いざ、ご案内を申し上げます」

 沢太郎左衛門を先頭に、四人はゆったりとした歩調で艦内を検分した。

 甲板下の砲室に入った上野介が眼を剥いた。

 砲室の両側に黒く塗られた備砲が並んでいる。それは異様な光景に見えた。

 上野介が砲身を撫でながら訊ねた。

「これは今まで見た大砲よりも一回り大きいの、備砲の数はいか程じゃ」

 質問に沢太郎左衛門が澱みなく答えた。

「片側に十三門、合計二十六門を備えております。特筆することは十八門が

最新鋭のクルップ砲にございます。距離、精度、破壊力は世界の一流の砲

に比べても一歩も引けを取りませぬ」

 沢太郎左衛門の言葉通り、日露海戦でもクルップ式火砲は多数使用されて

いる。上野介が何事か思案している。

「のう安芸守殿、この開陽丸を旗艦とし幕府海軍の組織を改革致せば、強力な

海軍に成りますな」

「左様」

 栗本安芸守も艦内を見物し満足そうな顔をして、上野介の問いに応じた。


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Last updated  Oct 9, 2013 10:43:11 AM
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