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Oct 13, 2013
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「小栗上野介忠順」(106)



              (パリ万博へ参加)

 上野介は一人、横浜に留まり、亀ノ屋の別室で独酌をしている。

 脳裡には先刻見た開陽丸の威容な船体が描かれ、艦長の榎本釜次郎の

語った言葉が、今になって斬新な発想に感じられる。

 幕府海軍が総力を挙げて防長二州の海岸に艦砲射撃を敢行し、長州兵

の守る海岸に兵士を上陸させる。その総兵力は四千名。彼等は仏国士官

により訓練された完全な洋式陸軍で、作戦は迅速な行動が必要である。

 
 二千五百九十トンの開陽丸を旗艦とした、八隻の幕府海軍である。

 開陽丸の舷側の大砲が火蓋をきり、随伴の七隻の軍艦も艦砲射撃を

開始した。最初に放った開陽丸の砲弾が、敵の砲台を粉砕する様子が

現実味を帯びて目蓋に浮かんでいる。

 上陸した幕府の洋式兵士が散兵戦術で最新式の銃をもって突撃して行く。

 到る所で長州兵が撃ち倒されている。

 海上には八隻の軍艦が、海岸線と平行する格好で並び、次々と援護の

砲撃を繰り返している。中でも七十三メートルの長さを誇る開陽丸が一際、

長大に映えている。因みに運送船と成った咸臨丸は排水量六百二十トン、

長さ四十九メートル、速力、六ノット(10KM/H)、開陽丸は十二ノットの倍の

速力を誇っていた。

「ご前、このような暗い部屋で何を考えておられます」

 唐突に上野介は現実に引き戻された。

 女将の美代が徳利の並んだお盆をもって、艶やかな女盛りの姿を現した。

 彼女はさらさらと畳を滑る音をたて行灯に灯を点した。

 部屋が一瞬のうちにに明るく成り、上野介が眼を細め苦い顔をして美代を

見上げた。既に美代は寝衣装に代えている、腰高に帯を締めた美代が上野介

の傍らに身を寄せ、火鉢を掻き分け炭を足している。

 化粧と美代の体臭の混ざった匂いが上野介の鼻孔を擽(すくぐ)った。

「わしは夢を見ておった、それも現実味を帯びた夢をな」

 上野介は美代に語りかけ、空の杯を差しだした。

 美代は無言で杯を満たし、豊満な躰を上野介にすり寄せた。

 温かく心地よい女体の感触を感じながら、上野介が乾いた声で告げた。

「わしはな最近、自分の余命がいくばくも無いような気がするのじゃ」

「ご前は死には致しませぬ。そのような事は聞きたく御座いませぬ」

 美代の声が昂ぶり泣き声を挙げた。上野介が美代の肩を抱き寄せた。

「生きとし生ける者は必ず死す、遅いか早いかじゃ。わしは幕府再建に命を

捧げておる。それ故に敵も多い、されどいまは冥土なんぞに行く暇はないわ」

 美代がそっと上野介を見上げ、内心、愕然と成った。何時ものご前とは違う、

 何の邪心もない澄み切った眸子をしている。不意に不安に襲われ美代は

上野介にしがみついた。

「如何いたした」

 上野介が染入るような声で美代に訊ね、

「さあ、そちも飲め」

 と、徳利を差しだした。

「頂戴いたします」

 美代が杯に唇をつけた。

「いまのようなお話は聞きたくございません。美代の生甲斐はご前さまだけ」

 低い声で呟く美代を上野介は抱き寄せ、彼女の眸子の奥を覗き見た。

「わしは未だ行けぬのじゃ。生きなければ成らぬ訳がある、心配は無用じゃ」

 見る見る美代の眸子から大粒な涙が溢れだした。

「抱いて下さいまし」

 上野介の胸に顔を押しあて迫った。

「その為に参った。今夜はそちを寝かさぬ」

 美代は涙で曇った顔を上向かせ、上野介を仰ぎ見た。

 上野介が美代の唇をそっと唇で塞いで思いきり抱きしめた。

「ああー」

 美代が恍惚の声をあげて身を揉んでいる。

(わしは何時まで生きられるか)

 上野介は柔らかな女体を抱きしめ考えている。

 彼は己の余命がいくばくも無いと時折、感ずる時が最近あったのだ。


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Last updated  Oct 13, 2013 02:22:22 PM
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