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カテゴリ:ショートショート
ブロンク地方はキャット・ザ・キングが目指す『勇者の谷』と同じ方向だったので、末息子マッシュは赴任地に戻る道すがら、久しぶりに父と積もる話をしていた。末息子とはいえ、もう体格も父に負けない、いやもう少しで追い越すのではと思えるほど成長していた。顔つきも三兄弟の中では最もキャット・ザ・キングに似ているかも知れない。その精悍な顔は少年期からそろそろ青年期に移る、無邪気さから大人としての厳しさに変わる過渡期と言ってもよかった。
父同様の優しい目を持つマッシュは父に言った。 「父上。母上が生きておいでなら、きっと私たち兄弟がもっと父上をお助けするようにお叱りになるところだったでしょうね?」 思わぬ息子の言葉にキャット・ザ・キングはハッと我に返り我が子を見た。 「何を申す?ベジットの心血を注いで育てた大事な子供たちに、この様な過酷な運命を背負わせる私を、彼女はきっと墓のなかでののしっているのではと、すまない気持ちでいっぱいなのだ。」 彼は、もう立派な男になろうとしている末息子の横顔を愛おしい反面、頼もしくも思えてまぶしそうにみつめた。 『導きのガーネット』が赤い光が示す東北の方向を目指しながら、一行はしばしの休憩をしていた。深い森の奥にもようやく春はその息吹を吹き込み始めていた。50メートルをゆうに超えるであろう高さから、白いしぶきを上げながらなだれ落ちる滝の下には、まだ冷たい雪解け水が注ぎこまれていた。その滝壺に膝まで浸かって先ほどからブラックとマッシュが剣の稽古をしていた。 「えいっ!やーっ!」 マッシュは必死でブラックに立ち向かうが、キャット・ザ・キングでさえかなわないのではないかという程の剣の達人に及ぶべきもなく、まさに子供扱いだった。 岸ではビーンズがチェリーに癒しの術を習いながら、時々一番下の兄の様子を見て大笑いをしていた。 森の中では氷の魔女エリーカも娘のレイナに魔法の厳しいレッスンを行っていたが、レイナは再び戻って来た災難にうんざりしていた。 「おーいブラック。ちょっとマッシュ王子に厳しすぎるんじゃないか?おとなげないぞ。」 レオンはブラックをたしなめた。 「いや、マッシュはなかなか筋が良い。時間さえあれば俺がもっと鍛えて、キャット・ザ・キングをも凌ぐ剣士にしてみせるのだが。」 それを聞いたキャット・ザ・キングは、「何を言う。まだまだ、こんな子せがれになどに追いつけるものか?」と、猛然と言い返した。 マッシュはそんな大人たちの会話など聞く耳も持たないほど、押し返されても、前に前にとブラックに打ち掛かって行く。 やがてブラックとマッシュはまるで兄弟の様に肩を組んで滝壺の中から戻って来た。 「正直にいいますと、この頃少し気持ちが沈んでいたのですが、いやーっ久しぶりに爽快な気分です。ブラック様のお蔭ですっかり晴れました。」 そういうとマッシュは、ふと思いつた様に言った。 「そうだ、ブラック様。ぜひ妹のビーンズを嫁にもらってはいただけませんか?とんだジャジャ馬ですが。」 「ちょっとマッシュ兄さん。いきなり何を言うの?私にも選ぶ権利があるのよ!」 ビーンズは怒り心頭に達したというような大声でわめいた。 一同は久しぶりに感ずる、ほのぼのとしたひと時を満喫していた。 「ほらね?」 マッシュはそう言うと大きく背伸びをして、胸いっぱいに深呼吸をした。それからまるで倒れる様にごろりと草原に寝そべった。 「そろそろ出発しよう。」とキャット・ザ・キングが声をかけた時、初めてその異変に気付く事になった。 Copyright (C) 2012 plaza.rakuten.co.jp/zakkaexplorer/ All Rights Reserved. 「雑貨Explorer」 今回のキーワードは「少年から青年へ」で47件だった。 まずはちゃんとタイトルに入っているから載せないわけにはいかない。
先日話題になった、ボクシングのしずちゃんはこの漫画が大好きだそうで、そう言えばこれはまさに少年から青年への物語だった。キジトラ三銃士の登場キャラの名は実はこの漫画のネーミング方法を参考にしているのだ。
小椋佳の作品のテーマもまさに「少年から青年」だろう。
怪物松坂も今は苦しんでいるようだが、はやくまたあの雄姿を見せて欲しい。
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