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カテゴリ:ショートショート
濃霧の中を一行は慎重に進んでいた。ここはようやくたどり着いた『勇者の谷』。それに先ほどブラックを襲った謎の射手の事もあり、なおさら慎重にならざるを得なかった。
頭上から大きく垂れ下がったツル植物や巨大な団扇の様なシダ類をよけて一行は進んで行った。濃霧は行く手を覆い隠し、ほんの数メートル先さえ見通すことが出来なかった。露に濡れた木々の葉から、雨の様なしぶきがピシャッ、ピシャッと顔を直撃する。突如足元を駆け抜ける得体のしれない生き物や、遠くに聞こえる猛獣の様な唸り声が油断は禁物である事を思い知らせる。エリーカとビーンズが二重に張り巡らす防御壁が完璧に一行を守っていたから、神経質になる必要はないのだが、不気味さは防ぎようもなかった。 先頭を行くキャット・ザ・キングは不意に足を止め前方をじっと見つめた。 「どうしました?」 そのすぐ後ろを来ていたレオンが聞いた。 「霧の向こうに何か黒ずんだ場所があるのだ。」 キャット・ザ・キングは猫族の持つ鋭い視覚を一点に集中していた。 「どうしたのかな?」 ブラックも後ろから少し右足を引きずりながらやって来た。先ほど射手から受けた矢の傷がまだ少し痛むのだ。チェリーから癒しの術を伝授されているレイナの治療は完璧とはいえないが、それでも短期間に習得したにしてはなかなかの腕前だった。しかし、その後に残る痛みだけは一時的に鎮痛魔術でもかければべつだが、避ける事は出来ないのだ。 「あそこだ。」 キャット・ザ・キングは右手で濃霧の中にぼんやり浮かび上がる黒い影を指さした。 一行は更に慎重に歩を進めるとようやくの黒ずんだ影の所までやって来た。 それは古代に建造されたと思われる石組みの巨大な神殿の入り口だった。入り口の両脇には守護神と思われる、これまた巨大な二体の石像が侵入者を威嚇するように立っていた。その石像の上にはうっすらと天井の様な物が見て取れたが、どうやら大きな吹き抜けの舞台の様になった場所だった。更に上を見上げても深い霧に紛れて見通すことは出来なかった。 「どうする?」 ブラックは尋ねた。 『導きのガーネット』は既にこの谷に足を踏み入れた時点から、石全体が真っ赤に光るだけだった。 「入るしかないだろうな?」 キャット・ザ・キングは強い意志をみなぎらせて言った。 神殿に足を踏み入れると、外とは違い通路の両側にともる松明のお蔭で途端に見晴らしの良い世界が開けた。 通路の行く手は限りなく続き、出口を肉眼では確認できない程だった。 キャット・ザ・キングは先導を務める者が身に着ける幸運を呼ぶ『天使の口笛』をギュッと握ると進み始めた。 しかし、何事もなく通路を抜けると大広間という表現ではとても表しきれない場所にたどりついた。上を見上げても黒い闇が広がるだけで天井があるのか、そのまま空につながるのか見定める事は出来ない。 石畳を進むと前方に宮殿がそっくり乗りそうな程広い舞台があり、その中心にポツンと小さな点が見えた。その点は腕組みをしており、仁王立ちにじっとこちらを見つめている様だった。 例の射手の様である。 その人物にあと二百メートルばかりのところで一旦キャット・ザ・キングは立ち止った。 「あの者は、あそこで何をしているだ。我々を待ち受けて何を企んでいるのだ?」 「父上、あれです。」 ビーンズの声にキャット・ザ・キングは彼女に振り向き、彼女の視線の先をたどった。 彼女の視線は黒い闇のはるか上をじっと見つめていた。 真っ暗闇の中に光る二つの大きな赤い目を。 Copyright (C) 2012 plaza.rakuten.co.jp/zakkaexplorer/ All Rights Reserved. 「雑貨Explorer」 今回のキーワードは「ドラゴン現る」で3件ですべて同じで実質1件だった。 「ハムナプトラ3」のサウンドトラックCDの17曲目に「三つ首ドラゴン現る」というのがある。どんなキーワードでもヒットするものだなあ。でも「三つ首ドラゴン」ってキングギドラじゃん?
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