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カテゴリ:太っちょポッポのトットさん2
「最初にここに来たのは私なの。」 トットさんに促されアリランは説明を始めた。 アリランが日本にやって来たのは世界でブームとなっている日本食を研究するためだった。渡り鳥さんの翼にしがみつき、命がけでここテニス競技場で有名な有明コロシアムの傍の小川にたどり着いた。 有明は東京都江東区有明にあるのだが、人間をはるかに超えるアリ世界に誇る科学技術で有名な一大拠点だ。
彼女はここにきて最初は順調に日本食の研究を始めたが、次第に何か違和感を感じるようになっていった。 ここに住むアリたちに笑顔がないのだ。 みんな無表情で、一日を昨日の続きの今日をただ明日のためにと生きているという感じなのだ。 やがて彼女は理解した。 この町はアリババと呼ばれる女王アリが支配しており、すべては彼女のために育てられ、生産され、消費されているのだ。 個人の自由は認められていない。 人々も自由など求めない。 なぜなら彼らは全員マインドコントロールされているからだ。 そこでアリランは全世界に向けて現状を訴え、住民の開放に手を貸してくれるように呼び掛けた結果、こうして6人のアリが集結したというわけだ。 そして7人目のアリとしてトットさんが選ばれたのだ。 偶然とはいえ。
これを聞きトットさんは不安に駆られた。 果たして自分に彼らの手助けができるのだろうかと。 足手まといになるくらいなら今のうちに断った方が良いに決まっている。 「俺にあんたらの手伝いなんて出来るのか?」 不安そうにトットさんが言うとアリストテレスが意外なことを言った。 「きっとできるとわしは思っとる。わしはずっとあんたとマスPと霊納ペンダントの魔法使いジーミーとの霊魂シャッフル・バトルを遠隔視野転送(Remote Visual Translation(RVT))で観察して来たのじゃよ。」
「遠隔視野転送(Remote Visual Translation(RVT))?マスPお前なあ、訳のわからん装置をでっち上げ、3文字アルファベットをつければいいってもんじゃねえぞ。」 トットさんが言うとマスPはしぶしぶ答えた。 「3文字アルファベットを使うといかにもSFっぽいでしょ?科学に弱いのでそんな手でも使わないとSF小説が書けないのです。」 「すると何か?俺は今度、世界が震撼した興行収入5億2000万ドル全米№1SFアドベンチャー超大作の主人公にされたって訳か?他人を好き勝手に弄ぶんじゃねえ。そもそも遠隔視野転送ってなんだ?」 トットさんのあまりにもオーバーな言い方にあきれながらマスPは言った。 「それは私にもわかりませんよ。アリストテレスさんに尋ねてみてください。」
それを聞いていたアリストテレスさんは説明した。 「遠隔視野転送とはなあ、人間の世界では未だにテレビカメラで捉えた映像を電子信号に変換して、データ通信網を通じて視聴者のテレビジョンで再生することしかできない様じゃが、アリの世界では被写体の傍に量子雲を形成し、視野、音感そのものを量子に投影し視聴者側の量子もつれ変換(Quantum Entanglement Conversion(QEC))システムで再生しているのじゃ。だからどんなに離れた場所でも、どんなに危険な場所でも、その場に行かずに映像化して光速をも超える時差のない映像と音声を提供できる技術じゃよ。」 マスPはアリストテレスさんの訳の分からない説明に混乱しながらどうにかこう言った。 「量子?もつれ?何ですかそれ。」 科学が全然ダメなマスPが聞くとアリストテレスが説明してくれた。 「量子もつれとはある粒子がふたつに分かれ『状態の重なり』という状態になったとき、距離、時間に関係なく、たとえばそれぞれを銀河の端と端に置いたとしても、一方に生じた向きに対してもう一方の向きは逆、一方がプラスなら他方はマイナスとなる現象を言うのじゃよ。」 それでも理解できないマスPはあきらめて、 「なんだかよくわかりませんけど、アリさんの世界はヒトさんの世界が及びもしない超ハイテク世界なのは分かりました。で、トットさんのどこが気に入ったというのですか?」 と尋ねた。
それにはアメリカから来た拳闘家のモハメドアリが答えた。 「どんな状況になっても動ずることなく、したたかに生き抜くガッツが気に入ったぜ。俺がみんなに推薦したんだ。面子をつぶしたら俺の蝶のように舞い、蜂のように刺す左ジャブでお前をぶちのめしてやる。」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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何につけ「アリ」が付く名前が登場人物なんですね!(^_-)-☆
(2019.10.11 16:40:29)
空夢zoneさんへ
元々SF好きで、星新一が好きでした。たまたま友人と行った博多のリーブル天神で、星新一のサイン会をやっていてもちろんサインをしてもらいました。 (2019.10.14 01:50:19)
ララキャットさんへ
アリの世界ではみんなアリが名前に付くそうですよ。 以前書いた物語は、『アリババのキノコ畑』というものです。 この話、最後のシーンは自分でもジーンと来てしまいます。 (2019.10.14 01:53:37)
こんにちは
家のPCのネットが金曜日(10/4)に出来なくなりました(涙!) J-COMの修理は今度の金曜日(10/11)で不便です(泣く!) アリランのネーミングが可愛くて好きです アリの救世主7人の活躍に期待しております(会社より)!! (2019.10.16 12:57:11)
simo2007さんへ
会社からわざわざありがとうございます。 このシリーズが終わって、しばらくトットさんはお休みいただき、犬の物語を始めようと思います。主役は猫なのですがレオ君、サクラさんにも前のようにご出演いただきたいと思っています。 (2019.10.17 00:38:49) |