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カテゴリ:BLマンガ
『その唇に夜の露』深井結己 なんだか久しぶりにBL漫画で痛い作品を読んだような気がする。 基本的に男二人が恋愛して愛が成就→ハッピーエンドという展開がほとんどのBLで、ヤクザだ警察だという暴力沙汰はあっても、心理的な痛さの漫画は少ないと思っていた。自分がこれまで読んだBL漫画で痛かったのは坂井さんの「花盛りの庭」シリーズの最初のほうと、国枝さん(つまり同じ人だ)の作品だが、前者はBLとはいえないカテゴリーだし、後者の作品群も短編が多いのでそれほど傷は深くなかった。 まあ、小説でも痛い系といわれるのは木原さんぐらいしか思いつかないので、もともと多くはないんだと思う。 でも、この漫画は思いっきり痛い話だった。基本的に好きなんだけどね。 でも最後は予定調和で、こんだけねじれた愛を違和感なく描くのは大変そうだ。 ともかくすごかった。たった二人の心理戦とレイプで一冊仕上げて、最後はハッピーエンドって。まず表紙が漫画っぽくなくて、どちらかというとBL小説みたいなデザイン。わざと粗い解像度で処理したようなザラついた質感が珍しいかも。タイトルもそうだけど、もう湿気十分、湿度100%の予感。明るくない予感たっぷり。 地味ながら基本の「働くお兄さん」であるバスの運転手と、学生時代レイプまがいにもてあそんだ(でもそれはラブだったの、という設定だが)相手が10年ぶりに再会。犯されたほうはその恨みを忘れておらず、当時の蛮行をバラされたくなかったら言いなりになれ、と終電後のバスの車内で逆にレイプされる。 なんか、渋すぎる設定! 昭和30年代かと思ったよ。そもそもあまり時代感を感じさせないから、料金箱さえハイテクじゃなければそのまま昭和中期の話でも通じるな。 バスの運転手って、少なくとも腐女子の萌えツボではないと思うが、公衆の面前に笑顔と名前をさらしているところがミソだ。仕事中は人の命を預かっている公人なんだもん、まさか若い頃、ヤロー犯して楽しんでたとは誰も思うまい。 でもって、戻ってきた奴がまた10年一日も恨みを忘れずにいた執念深いヤローだった。女顔の美少年は眼鏡の酷薄美人に成長していた、というわけだ。当然、リベンジでは受攻逆転で、二人の関係はこの時点で立派なリバーシブル。 バスの中とかって、安手のポルノまがいで(それも執拗に何回も出てくるから)、BLでは新鮮な設定だけど、10年前から実は二人の奥底には、お互いを好きだったという感情があって、ちょっとした態度や行き違いで、お互いに「裏切られた」という思いを抱いていた。それが無謀な身体の関係からはじまって、最後は結局ハッピーエンド。 自分的にはバッドエンドでもよかったぐらいハマった。面白いよ。 絵も嫌いじゃない。あっさり目だけどエッチは意外と濃くて、目つきの悪い男は最高だ。二面性とかよく出ているし。 ともかくほとんど2人っきりと言っていい密度の濃さなのに、破綻なく話を盛り上げて、最後はうまくまとめるあたり、構成力のある人なんだろうと思う。こういう暗くてネチっこい作品もっと読みたい。この人、ホラーっぽいもの描かせても上手いと思う。ていうか、この作品自体、ホラー要素大だった。 初めて読む作家さんだったので、この作品でびっくりして、とりあえず近場のぶこふで既刊を漁る。で、2冊ゲット。 『砂の下の水脈』これも痛さ満載。 『きみが居る場所』ちょっとホームドラマ。 ああ、やっぱり国枝さん、それに宮本佳野さんとも共通する湿っぽさと後ろ向きな登場人物たち! うじうじねちねちしたタイプは全然好みじゃないのに、しっかり心の動きが描けているから、納得してしまう。 好きだ! こういうの。絵はとりわけ個性があるわけでもゴージャス系でもないけど、子どもも学生もリーマンも、ついでにくたびれたオヤジもよく描けている。 「きみが居る場所」は6,7年前の短編集で、ちょっと耽美入ってる絵柄もあって、もともとBLよりはジュネ系なのかもと思ったり。今のほうがすっきり・あっさりしていて好きだな。 あ、なんだか作家さんの名前に見覚えがあると思ったら、雑誌(「麗人」だったか「ピアス」だったか)でフォモビデオのレビュー描いてる人じゃないか! どうりでエッチが濃いと思ったよ(笑)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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