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秋山巌の小さな美術館 ギャラリーMami の「まみだより」

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2016.12.18
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カテゴリ:秋山先生


秋山巌の小さな美術館 ギャラリーMami の町田珠実です。

先日の記事で、秋山巌が版を彫っている写真を載せました。
その写真が載っている本が、こちらの「木版画入門」です。

木版画入門~ 基礎から多色刷りまでのやさしい技法~ 秋山巌 編著
永岡書店 初版が
昭和54年(1979年)11月。秋山巌が58歳の時になりますね。

この本のプロローグとして、「板の道」という文章を描いています。
当時の、版画への想いが込められている貴重な文章ですので、全文ご紹介します。



●プロローグ   板の道

 我が師、棟方志功は、よくいわれました。

「下絵をごていねいに描いて、板に写し、写した絵をきれいに彫り、彫りあがったらバレンで刷って、さあ板画(版画の意。志功独自の言葉)ができました。これが板画でございますかといえば、いやいやとんでもないことですよ」と。

なるほど下絵(素描)を写して彫れば版画らしいものにはなるだろうが、これでは仏作って魂入れず、というものでしょう。

 志功先生曰く、「上手にできています。うまい版画ですが、惜しいことに〝化け物〞が出てないのが残念ですね」こうした会話を、展覧会や、板画院(美術団体のひとつ)での研究会の都度、私たちはもちました。

 志功先生がいわれる化けものとはどういうものか、私はこのひと言の理解と追求にかなりの年月をかけました。

 8年余り前の盛夏、四国の風物を取材すべく高松を訪れたことがあります。さてどちらへ行こうか、私は駅で急行の時刻表を見て行先を決めようと思いましたが、どこへ行く急行も一時間は待たなくてはならないので、それでは軽い読物でも買っておこう、どうせ何時間も乗る汽車の旅だと、市内の本屋へ立ち寄りました。

 その本屋で手にしたのが、『句集草木塔』でした。ページをペラペラめくっているうちに、強烈で斬新な言葉が眼に入ってきました。

 分け入っても分け入っても青い山
 生死の中の雪ふりしきる
 うしろすがたのしぐれてゆくか

 これは俳句だろうか。私の貧しい文学の知識では、俳句というものは季語が入っていて、五七五であると思うのだが。とにかく素晴らしい言葉がどんどん私を引きつけたのです。
 
 著者の略歴を見ると、禅僧・俳人 種田山頭火とあります。さて、禅僧で放浪の俳人・山頭火とは如何なる人物なのか。私は旅行の予定を変更しました。そして次の便で本土に戻り、山頭火の全集を求めたのです。

 その年の夏から秋にかけて、私は郷里の菩提寺に足を留め、山頭火全集に没頭しました。幸い菩提寺の住職さんは、私とは少年時代からの友人であり、またこの地方には惜しい英俊の文学者でもあったので、好意をもって快く宿を提供してくれたうえ、俳句の参考文献から仏教書まで貸してくれたのです。

「草木塔」をはじめとして、山頭火の日記、その他を読み直して、私は深い感動と同時に自己嫌悪に陥ってしまいました。いままでの己の仕事のなんと底の浅いことかを思い知らされたのです。
 しかし、感動の強さが自己嫌悪を上回ったのでしょう。こんなに私の心を揺さぶり、突き動かすものこそ化けものではではなかろうか。志功先生が口癖のようにいわれた「化けものを掴め」とはこのことだったのかと、目から鱗が落ちたような想いがしました。
 
 同時に山頭火が捨身懸命に求道した禅というものにも、あらためて私は驚きを識ったのです。といっても私は特に禅に没入しているわけではありませんが、山頭火を理解するために禅の本を読んだり、参禅したり、時には仏典に親しんでいるうち、自分なりに少しはわかるような気がしてきたのです。

 曹洞宗の始祖・道元禅師の教えを記した「修証義」の一節に、感応道交という言葉があります。仏教辞典によれば「仏と衆生との関係は親子の情のように、衆生みずからではなく、教え子のていでもなく、衆生に機縁があれば仏の力が自然とこれに応じ、衆生の感と仏とが互いに交融する意」とあります。

 私が求めようとした道、化けものの発見は、山頭火との出会いであったようです。前にも記しましたが、「板画というものは、如何に下絵を上手に写し、彫りあげても、それだけでよい板画にはならない」という師・志功の言葉の意味が、ようやく理解できそうです。
 
 これはあくまで私見ですが、志功先生ほどの百年に一人という天才画人でさえも、化けものの発見には永い年月の苦闘究尽の必要があったようであり、種田山頭火ほどの英才が家を捨て、妻子と離別してまで求めた道です。私などまだまだやっと、化けものらしいものが見えてきたに過ぎないのです。
 
 しかし、私同様に板の道を求める人も多かろうし、板画に興味をもつたくさんの衆生もいるでしょう。まずは興味を引かれる対象を見つけて取り組んでみることです。手近なモチーフを版に起こし、刷り、そういった工程を愉しむことから、板画への愛情へと進み、それぞれの個性に合う板画を創り出すことが大切です。
 
 本書は、板画に興味をもった初心者の人びとのために、太平洋美術会の版画部の有志たちが分担執筆し、私がまとめるという方法をとりました。

 内容は一応、初心者を対象にしてありますから、これから公募展に出品してみようと思っている中級者の方にも参考になるのではないかと思います。

「命は光陰に移されて暫くも停め難し」といいます。
私も好きな板の道を極めつくすべく、今後もせっせと描いたり、観たり、彫ったりしていきたいと思います。
           合掌

秋山巌


以上です。私も出版されてから持ってはいたのですが、この「板の道」をしっかり読んだことはありませんでした。1979年は私18歳。無理もないですね。太平洋美術会の版画部の皆様。懐かしいお名前が連なっているこの「木版画入門」、もう少しご紹介していきたいと思います。





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最終更新日  2016.12.18 18:45:43
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