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こちらはみぞれ雪が降っています。
こたつに入ってひとり、楽想にふけっています。五線紙の上をきれいなメロディが流れていきます。 今、萩野綾子氏からの催促を得て、作曲に集中しています。 昨日、福島市の実家に帰り、両親と今後のことについて相談しました結果、九月には日本を離れて、ロンドンに行くことに決めました。 ロンドンに行く便船、決定次第、お通知いたします。 私は英国で一生懸命作曲し、楽譜を出版し、きっときっと貴女をお呼びいたしましょう。まだ、貴女の声に接していませんが、きっと素敵な声だと信じます。 あと六ヶ月です。ぜひとも、あんたとお会いしたい。 渡英前に大阪に行く用事があるので、その折、貴女が豊橋にお帰りになっていられるようなら、 豊橋に逢いにまいります。 私が上京するときに、貴女が東京にいらしゃるなら、そちらの近くまで行きましょう。 すぐにでも上京したいのですが、今少し、体の具合がよくありません。過激に勉強したせいかもしれません。医者には過労だと言われました。寝る時間がおしいのです。 とりとめのないことを書きました。あしからず。 清く、いつまでもご交際、願います。ではまた二、三日後に。 古関勇治 追伸 金子というお名前、どう呼ぶのか、教えていただけますか ※※※ 英国に行ったら、勇治は自分を呼んでくれるという。金子は歓喜します。 ロンドンの街の風景を想像し、勇治とテムズ川のほとりを歩いている風景を思うと、天にも昇る気持ちになります。 いったい、これは本当にことだろうか。まさか戯れではないか。 勇治は金子に逢いたいと望み、また二、三日後に手紙を書くともいう。 これが現実であると信じていいのだろうか。 金子は書きます。 ※※※ 貴方の手紙に、私はどれほど勇気づけられるか、おわかりになりますでしょうか。 私のために作曲してくださる。そして理想にしても、外国へ呼んでくださるなどおっしゃっていただけるなんて、私はなんて幸せなんでしょう。 ………省略…… 貴方のお手紙を何度も繰り返し読み、どんな方かしらといつも考え続けています。 私も何も成し遂げずに死ぬのはいやです。 母と姉が縁談をすすめ、音楽の道をあきらめるようにと、しきりに誘惑を試みます。 私の意思は、もちろん固いのですけれど、しゃくにさわりますし、困ります。 結婚は、二、三年は絶対にいたしません。 声楽を理論的に根本からやり直したいのです。 もっともっと勉強し、声を洗練させたいのです。 英国に呼んでくださるという貴方の言葉を私は信じます。頼ります。待っています。一年でも二年でも。 生涯の岐路にあるこのときに、貴方という力強い、すがれる友人と出会えたんは幸運という言葉では足りません。 貴方が今、私の未来を照らしてくださっています。 私の名前はキンコと呼びます。華やかな名前だという人もあれば、堅く冷たそうに光った名前だという人もいますが、私自身は欲張りみたいな感じがする名前だとずっと残念に思っておりました。私なぞ、ニッケルで十分だと。 しかし、今は、この名前のごとく、光輝く尊い人間になろうと考えなおしております。 音楽の勉強に夢中になり、新しい音楽を生み出そうとしている貴方は素敵です。 どうぞお体にはお気をつけ遊ばしてくださいませ。貴方あっての音楽ですから。 お返事お待ちしています。 内山金子 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2020.05.20 23:46:27
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