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久しぶりのハガキが来た数日後、熱烈な手紙が届きます。
※※※ 貴方は私の最も親しい友達です。 否、友達以上のものです。 今さら、友達にしてくださいなどと言わないでください。 もう前から親友じゃありませんか。 私の理解者で後援者は、ただひとり、金子さん!貴女だけです。 文通によって友となった貴女がこれほど私を慕ってくださいまして、本当になんとお礼を申し上げればよいのやら、わかりません。 幾百の友人をもつよりも、ただひとりの最も良き自己の理解者を持つこと、その素晴らしさを今、私は実感しています。 一度もお目にかかったこともないのに、貴女の手紙を読んでおりますと、友として超えてはならないある垣根を超え、友以上の存在と感じています。 二人は遠く離れていますが、私のこの気持ちは永久に変わりません。どんなことがあっても、貴女を忘れることができません。 最も良き、私の芸術の理解者となってください。私のお願いです。 私は自分の創作する芸術に対し、最大の満足を感じています。 いかに外部の人々が反対しようが、自分の意思を、音を通して表現するとき、限りない喜びを感じます。 仕事が忙しくなったそうですね。職業を持つことは芸術の勉強には邪魔になるかもしれません。しかし、一定の職業があれば、生活の安定が得られます。大変でしょうが、芸術の勉強はしっかりなさってください。 名古屋には、商業学校在学中に就学旅行で行きました。豊橋市は汽車で通っただけでした。そのころ、金子さんは豊橋にいらっしゃったんですね。本当に不思議な二人の運命ですね。 名古屋では、鶴舞公園に行きました。いいところですね。もう桜は咲いたのでしょうか。 貴女のお写真を前にして、お手紙を読むと、貴女のそばにいて、話をしているかのような気がします。 私の最も愛する(これ以外に自分の胸中を表現する文字はありません)内山金子さん。 私のことを信じてください。 ♥の持ち主 古関勇治より 私の最も慕ふる 内山金子様 ※※※ 同じ日に、もう一通、勇治から手紙が届きます。 イギリスで、勇治の作曲した舞踊組曲『竹取物語』のレコーディングが決まったこと。 そのうちの1枚を、金子に送るように手配したこと。 そして次のように結ばれていました。 ※※※ 貴女のために、全神経を音楽に注いでいるこの哀れな病弱な作曲家をいつまでもいつまでも愛してください。 1930年、なんて幸福な年でしょう。 貴女が恋しくて恋しくて心が躍ります。 作曲家ロバート・シューマン古関勇治より 私の恋しきクララ・シューマン 内山金子様 御♥に ※※※ 愛と芸術に生涯を捧げたといわれる作曲家ロバート・シューマンが恋したのは、天才少女と呼ばれ、ドイツで最も高名なピアニストとなった美貌のクララでした。 それまでもっぱらピアノ曲を書いてきたシューマンは、クララとの結婚を機に歌曲を書き始め、結婚した年だけで100曲以上の作品を残しています。 その年に発表された歌曲集『詩人の恋』の『美しい五月に』が金子は好きでした。ハイネの詩です。 勇治の手紙を読むたびに「美しい五月に」のメロディが金子の脳裏に流れたことでしょう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2020.05.26 20:39:52
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