|
カテゴリ:***** 神秘 *****
そのアパートに引っ越してから、”なにかいる気配”を感じるようになった。
アパートの2階に住んでいるが、入り口は1階にある。 そのため屋内には、2階に上る階段がある。 階段は途中で折れ曲がり、そこには踊り場がある。 ”なにかいる気配”は、その踊り場に感じられた。 階段は電気を消せば暗く、なおさらに不気味で、 私は階段から離れた部屋に扉を固く閉めて篭り、踊り場から気をそらしてすごすのを常とした。 しかし、踊り場の気配は、それからも感じられた。 そうした、ある日、その踊り場の気配の理由に気付いた。 アパートの防音は確かだが、完全ではない。 階段の踊り場は隣室に最も近く、壁が最も薄くなる。 そのため、その場所では、かすかに隣室の声が聞こえることがあるのだ。 声は低くこもっていて、なにを言っているかまでは分からない。 しかし、たしかに声が聞こえることがある。 その聞き取れないほどのわずかな声でも、人の五感は捕らえ、”なにかいる気配”として感じていたらしい。 踊り場の気配は、かすかな声を感じていたからだった。 不気味でならなかったことも、理由が分かればなんでもない。 おおよそ心霊現象というものは、科学で説明できるものなのだ。 これでもう、安心して眠ることができる。 もう忘れよう、踊り場からの声のことは。 そうだ。もう忘れなくてはならないのだ。 隣室には、だれも住んでいないということも。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[***** 神秘 *****] カテゴリの最新記事
|