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カテゴリ:絨毯・キリムの話
人のモチーフというのは、キリムや絨毯の上でというよりも、古代の石碑や石棺、壁画などで見られるものに馴染みがあると思う。
特定の人の人生を意味するものもあれば、その集団での生活の様子を描いたものもある。 私たち人間にとって、当たり前であるが人は一番近い存在であり、人は人から生まれ、人は人を産む。そして誰もが迎える死というものにも直面する。 キリムや絨毯に描かれる人は、他のモチーフが元がなんだったのかわからない程度には抽象化されているるのに対して、結構生々しさを感じる。 もちろんリアルに描かれているわけではないが、頭があり腕があり2本足で立つ様子は人と特定できる形であり、織りのデザインとして限界はあるものの、織り手がイメージしたものが人であることは明確である。 人が織り込まれている織物は各地にあるが、東部に多く見られる傾向がある。 イランとの国境辺りでもギャッベに描かれる人型、動物型の影響を受けているものがある。 一見、幾何学モチーフの羅列と思われる、このキリム。 トルコ東部のクルド系住民の織物である。 よく見ると人の形をしたものがある。 連続モチーフから切り離したら人に見えただけなのか、そこを意図して織り込んだのか。 目がひとつだけの宇宙人に見えなくもない。 そしてその周辺にも4つ足の動物、たぶん羊かラクダ、さらに犬だろう姿も見える。 4つ足のモチーフはどのモチーフの転用でもないから、最初から動物として入れたものかもしれない。 下の犬らしきものは、本来はX型のモチーフの一部の糸の方向を変えたら犬になった・・・感じがあるけれど、明らかに動物として描いたのであろう。 世俗的に考えれば、人のモチーフは子供を望む女性の気持ちの表れかと思う。 妊婦さんで近い将来産まれてくる子供の姿かもしれない。 もしくはキリムや絨毯が言葉に出来ない気持ちの表現方法という説を取り上げれば、兵役に行った夫や婚約者を恋しく思っているのか、まだ見ぬ未来の旦那さまを描いたのかもしれない。 いずれにしても愛しい人、待ち望んでいる人の姿なのであるということ。 いやいや、もっと単純に牧畜の民であれば、自分の生活の中で見られる光景。 家族がいて、羊がいて、牧羊犬がいるとか…。 それらが意味するのは家族、一族の繁栄と幸福。 織物のモチーフはその土地土地の伝統の柄があり、それらが母から娘へ代々受け継がれていくものではあるけれど、そこに個々の工夫やセンスが施されて、変化がもたらされたり、新しいモチーフが誕生したり、その時代を物語る一時的な流行りがあったりもする。 織り手の女性たちは、生活の中で必需品としてこれらを作ってきた。 同じ地域の同じモチーフのものであっても、作り手が100人いれば100通りの織物が誕生してきた。名前を残すことなく、一人の庶民としての人生だったかもしれない。 しかし、どの女性も名もなきデザイナーであり、作家であったったことは間違いない。 人のモチーフが描かれていようがいまいが、キリムや絨毯にはそれぞれの織り手である女性たち、命あるものとしての生から死までの人生が記録されているのである。 ------------------------------------------------------------------ YouTubeに「ikumi nonaka」チャンネルを開設しました。 トルコの伝統手工芸、食文化、生活、牧畜などをご紹介していきます。 新着のお知らせがいくように、チャンネル登録をぜひお願いします❤ ikumi nonaka チャンネル ------------------------------------------------------------------ ミフリのショッピングサイトはコチラ↓ ミフリ&アクチェ にほんブログ村 にほんブログ村 その他・全般ランキング へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
December 20, 2022 09:22:43 PM
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