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ロスで行われているフィギュア・スケートの男子ショートプログラムが終わった。たった今フジテレビ地上波の録画中継を見終わったところなのだが、「これまでのグランプリ・シリーズは何だったんだ?」と思うような点数だった。
気の早い記者は、グランプリ・シリーズで上位に来る男子選手のメンツを見て、「男子は世代交代」と書いたが、結局今回のショートの順位を見ると、 1 ジュベール(46+38.4) 2 ライザチェック(44.4+38.3) 3 チャン(45.6+36.95) 4 ベルネル 5 小塚 と、今シーズン始まる前に予想された実力者が上に来た。チャンは若手だが、もともと昨シーズンの世界チャンピオンを国内大会で破った選手だ。ジャンプが不安定で昨シーズンは大きな大会で結果が出なかったが、ジャンプを決めてくれば世界トップを争える。 一方で、グランプリ・ファイナルと全米を制したアボットは中継さえされず(苦笑)、順位だけ確認したら10位。 上位選手の点を見ると、4大陸で下品ともいえる爆アゲされたチャンが、見た目のできのわりには案外点が伸びずに82.55点。そのチャンとの対戦で、カナダ大会でサゲられまくったアメリカのライザチェックが、今度は演技・構成点でチャンを1.35点上回る評価を得て、82.7点で2位。そして、連続ジャンプの4回転で手をつき、続くセカンドジャンプの3回転トゥループでは、本田武史をして、「回転不足判定にされそうなジャンプ」と言わしめる不足ジャンプのジュベールが、案外点が下がらずに84.4点で1位。 まだプロトコルを見ていないのだが、あえて見ずに予想すると、ジュベールのセカンドの3Tはダウングレード判定されず、認定されたのではないか。着氷があれだけ乱れると、GOEでは当然減点になるが、回転不足判定されなければ点がガクンと下がることはない。何度か指摘したが、セカンドの3Tは総じて認定されやすい。キム選手がこれまで何度か3F+3Tの3Tでグリ降り(降りてからエッジがグイっと回ること。多少足りないジャンプに見られる現象)をしたが、いずれもダウングレード判定されず、認定→加点になっている。 そして、チャンはフリップのエッジがアウトだったように見えた。ここでwrong edge判定されてしまったのではないか。それと4大陸ではレベル4にテンコ盛りの加点のついたストレートラインステップがレベル3に留まったのかもしれない。 チャンの「4大陸と比較すると、出来のわりには低い点」はやはり気になった記者もいたようだ。「ジャッジは今回チャンに88.90点のシーズンベストには程遠い82.55点という点を与えた」と4大陸の点を引き合いに出して書いた英語の記事があった。4大陸はあまりにひどかった。あのような地元選手の爆アゲは、大会の格式をキズつける。一方で、今回の82.55点というのは、ややおさえ気味かもしれない。もう2点ぐらい出てもおかしくない出来だったと思う。 男子シングルは、ジュベールとチャンの「舌戦」がアメリカ人記者の話題にのぼっていた。日本では報道されなかったが、仕掛けたのは、もちろん「永遠の不良少年」ジュベールのほう。 「男子のチャンピオンは4回転も跳べないようなヤツがなるべきではない。(チャンへ)4回転入れてみろよ。そうすればどれだけプログラムをまとめるのが難しくなるかわかるから」と攻撃すれば、チャンは、「プログラムはトータルのパッケージだと考えるべき。ジャンプだけではなく、他の要素も大事」と返す。 こうした互いに一歩も引かない2人の対決は見事だと思う。人は誰でも自分が正しいと思ったことを主張する権利がある。フィギュアの選手は特に、我こそは世界一と自分に言い聞かせてリンクに上がらないと、気持ちで負けてしまう。ジュベールの意見もチャンの意見もそれぞれに一理ある。今季のグランプリシリーズは、3回転ジャンプやダブルアクセルにやたら加点し、トリプルアクセル(女子ではセカンドの3ループ)のダウングレード判定がやたらと厳しいなど、大技に挑戦するジャンパーのモチベーションをあえて阻害するような採点が続いたが、今回ジャッジはジュベールに技術点、演技・構成点とも最も高い点を与えた。 だが、ジュベールは自分の出来に満足していなかったはずだ。演技終了時の暗い顔を見ればわかる。一方のチャンは大満足で、出てきた点数に落胆していた。Mizumizuも今回はチャンの演技が一番華があったと思う。何より、フィギュア・スケートでもっとも好まれる「優雅な色気」があるのがいい。 小塚選手も思った以上に点がでなかった。だが、出来は素晴らしかった。小塚選手は今シーズン、フルに戦い、しかもどの試合でもフリーでは高難度のジャンプ構成を組んできた。疲労はピークだと思うし、ジャンプに若干高さがないのが気になるが、ここまでまとめきるのは見事。クリーンでシャープなエッジ遣いと若々しく清潔な表現力は、チャン選手とは別の意味で見ていてうっとりさせてくれる。 フリーではようやく、「4回転回避して、後半のジャンプを決める」と明言した。 中京テレビ公式サイトから小塚選手のインタビュー引用:「今回は(オリンピック)3枠確保が優先なので、ただ挑戦するだけじゃなくて挑戦するなら必ず成功する。そうでなければ四回転はやらないと、“ケジメ”をつけてやら無いといけないと思うので、四回転にこだわらず、その後のジャンプがカギを握ると思うのでそっちに力を注ぎたい。」 本当はもっと早く方針転換するべきだった。繰り返し指摘してきたが、小塚選手のプログラムは、後半の後半に勝負のトリプルアクセルが来る。それを成功させたのは1回だけ。今季は4回転を入れてそのたびに点を失い続けた。4回転に挑戦するなと言っているのではない。まだ試合で入れるのは早いと言っているだけだ。 チャンや織田選手は後半の初めに2度目のトリプルアクセルを入れている。ジュベールは後半に入れるのをさけ、前半に2つ跳んでしまう(今回は構成を変えてくるかもしれないが、少なくとも欧州選手権ではそうやって2つのトリプルアクセルを決めた)。彼らと比較しても、小塚選手の場合、2度目のトリプルアクセルを決めるのが難しいのだ。跳べない4回転にいつまでも「果敢に挑戦」している場合ではない。 そのあたりも本人はわかっているようで、「挑戦するなら必ず成功しなければならない」とハッキリ言っていた。決められないものは回避して、より優先順位の高いジャンプに注力する。当然のことだ。 4回転のかわりに3Tではなくダブルアクセルにするというのもいい判断だと思う。なるたけ負担を軽くしないと、ジャンプをミスなく決めるのは難しい。後半のトリプルアクセルは加点を考えると10点近い点が稼げるジャンプなのだ。だが、やはりちょっと戦略転換が遅かったのが気になる。4回転回避策は、これまでやっていないことだ。これで今回、構成上難しい位置にある2度目のトリプルアクセルを決められるかどうか、まだ微妙だと思う。2Aの加点も、グランプリ・シリーズほどはもらえないかもしれない。 どうもダウングレードやwrong edgeの判定、GOEのつき方、演技・構成点での評価が、試合(開催地によって、というのかジャッジによって、というのか)によってあまりに違いすぎて、戦略を立てるのが難しい。今季のジャッジングはフィギュア・スケートの審判に対する信頼を大きく損ねたと思う。 織田選手の壁激突は、いかにも残念。7位でフリーを最終グループで滑れないということは、台にのぼるのはほぼ絶望的だ(もちろん、試合なので何があるかわからないが、最終グループに残らないと、演技・構成点がおさえられてしまうのだ)。4回転に挑戦すると言っているし、これが吉とでるか凶とでるかはやってみないとわからないが、これまでも「練習では9割決まっている」と言っている4回転、試合では一度も決めたことがない。 ルッツを2つ入れている小塚選手以上に織田選手はジャンプ構成を落として、4回転と2回のトリプルアクセルにかけてきている。4回転と3Aに失敗が出ると、3枠確保が難しくなるかもしれない。それが最悪のシナリオ。3枠取れないとなると、高橋・織田・小塚の素晴らしい選手のうちの1人が、一番いい時期にオリンピックに出られないという悲劇が起こる。なんとか3枠確保に、頑張って欲しい。 期待したほど点が出なかったが、それはそれ。仕方のないことだ。目標は3枠確保! 何より自分がオリンピックに出るために、自分の力で取ってほしい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.03.26 20:04:59
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