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Mizumizuのライフスタイル・ブログ

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2009.06.21
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メトロポリタン美術館は、とにかくデカい。開館と同時に行って、「さ~、今日は1日かけてゆっくり見るぞ~」と意気込んでいたMizumizuも、入館して10分でいきなり疲労困憊。

大きな美術館は、どうしてこんなに疲れるのだろう?

美術品それぞれにエネルギーがあり、そのエネルギーが大きければ大きいほど、つまり作り手の魂が込められている作品数が膨大なほど、こちらのエネルギーが吸い取られるような気がする。

メトロポリタン美術館に行くなら、やはり絶対に見たいものを事前にピックアップして、エントランスのインフォメーションで(日本人がいます)、どこにあるのかしっかり聞いてから見学を開始すべき。

メトロポリタンの見取り図はこちら

もっとも人気の高い2階のヨーロッパ絵画コーナーについては、展示されている画家の名前と部屋番号が明記された、さらに詳しい見取り図がインフォメーションでもらえるから、これは絶対に入手しよう。

見学者の最大の関心は、やはり印象派を中心とするヨーロッパ絵画にあると思うのだが、あまり日本人になじみがなくても、美術史上重要な作品というのがあるので、今日はそれをご紹介。

まずは、1階のエジプト美術から。
エジプト
デントゥール神殿(紀元前15世紀)。運河開通にともない、水底に沈むところだった遺跡を移送・修復・再現したもの。

これは誰でも見るでしょうが、この神殿の間に至る前の展示室にあるのが、
イエロー・ジャスパー
「女王の頭部断片」(紀元前1417-1379)

制作年代の古さもさることながら、この素材が貴重。イエロー・ジャスパーでできている。ジャスパーとは碧玉と訳されるが、要は石英(クオーツ)の集合体。

表面がまるで鏡のように磨き上げられている。まるっきり現代のピアノラッカー仕上げ。きらきらと照明を反射する、つややかな肌の質感、肉感的な厚い唇。3400年前のモノってマジですか? 不思議な魔力が宿っているよう。

小さな作品なので、見逃さないように。わからなくなったら、「イエロー・ジャスパー、クイーン・ヘッド」などの単語を並べれば、そこらに立ってる守衛のおじさんたちが教えてくれるでしょう。

1階の奥にある「ロバート・リーマン・コレクション」。ここは隠れた書斎のような雰囲気で、非常に落ち着ける。ふかふかのソファが置いてあるのも、メトロポリタン美術館では珍しい。
アングル
その中でもイチオシなのが、アングル作「ブロイ公妃」。

これまた布の質感が圧巻。もちろん、まるで陶器のような肌の美しさも。最近は図版の写真技術が素晴らしいので、古い絵だと、実物と図版がそれほど違わないという印象を受けることも多いが、この作品に関しては、「やっぱり写真とは違う」と驚くこと間違いなし。

メトロポリタン美術館はフラッシュをたかなければ、写真はOKです。もちろん、うまくは撮れませんが。

2階のヨーロッパ絵画コーナーで、日本人には人気がないけれど、是非見て欲しいもの。それは、ヤン・ファン・エイク(Jan Van Eyck)の「キリストの磔刑および最後の審判」(15世紀)。
磔刑と最後の審判

ファン・エイクはフランドルの天才画家。ちょうどイタリアでレオナルド・ダ・ヴィンチが生まれる数年前に亡くなっている。

ファン・エイクを初めとするこのころの北方画家は、イタリアのルネサンス画家にも影響を与えている。立場が明確に逆転したのは、16世紀に入ってから。

ファン・エイクの他の作品については、こちらのサイトが詳しい。

メトロポリタンのこの作品は、左がキリスト磔刑図、右が最後の審判図になっている。

まず注目すべきは、そのリアリズム。画に登場する人物すべてが、ほとんど同じ緻密さで描きこまれている。事実、ファン・エイクは「リアリズムの先駆者」とも言われている。

左側の磔刑図は現実感のある舞台設定。遠景にある高い山は、フランドル地方にはないもの。つまり、ファン・エイクは遠方のアルプス(恐らく)の景色を、作品に忍び込ませているということ。これは後のフランドル画家ブリューゲル(父)の作品にも見られるアプローチ。

スリムなキリストの顔は土気色で、まさに人間の死そのもの。嘆き悲しむマグダラのマリアのポーズも真に迫っている。聖母マリアのほうは、青い衣につつまれて、キリストと同じように土気色の顔は、ほとんど見えない。まるでキリストとともに死んでしまったかのよう。

風景画の要素を取り入れた磔刑図に対して、右の最後の審判の図は、イマドキのCGを使った映像のようにファンタスティック。特に地獄に落ちた罪人と怪物の描写は恐怖映画のよう。中世末期の画家の卓越した想像力を感じさせる。

リアリズムとファンタジーが織り成す、硬直した一瞬――ヒエロニムス・ボッシュ(ボス)もピーター・ブリューゲルも、いやフェルメールだって、ヤン・ファン・エイクの存在なしには考えられない。まさしく、ネーデルランド絵画の創始者の名にふさわしい。

日本人に特に大人気の17世紀のオランダ画家フェルメール。
フェルメール
フェルメールの間には、日本人がいっぱい。今回のNYで一番日本人に会ったのが、メトロポリタン美術館のフェルメール展示室ではなかろうか。

こうした風俗画のほかに、「信仰の寓意」などもあるが、フェルメールの寓意画は、あからさますぎて、あまり面白くない。中世末期の画家がもっていた自由な想像力・発想力がフェルメールの絵からは感じられない。

一般には、教会の権威に縛られ、自由がなかったかのように思われている、職人としての中世画家が、現代のファンタジー映画に出てくるようなキャラクターを奔放に登場させているのは、本当に興味深い。そして、彼らは必ず、人間のダークな精神――妄想とか、妄執とか、迷信とか、悪習といった――に繋がっている。

たとえば、中世末期、ルネサンス初期の画家ヒエロニムス・ボッシュ(ボス)は、レオナルド・ダ・ヴィンチとほとんど生きた時代が同じ。にもかかわらず、まったく違った精神世界に生きている。

ボッシュの描く怪奇な世界は、今、さまざまな心の病にとらわれて先に進めなくなっている多くの現代人の精神の内面世界を映したようにも見えるのだ。

ボッシュ
怪奇なキャラクターが跳ね回るボッシュ作品の一部。こうした描写を中世的な迷信と決め付けるのは早計だと思う。実体のない恐怖や不安に絡め取られて身動きができないでいるという意味では、多くの現代人も同じなのだ。

哲学や科学よりも宗教に多くの人が救いを求めている現代――やはり人間というのは、それほど合理的・理知的には生きられない。ピーター・ブリューゲルもそうだが、この時代の北方画家は、イタリアルネサンスの画家とは違った、宗教観にもとづく伝統的なアプローチで、人間の本質に迫っている。

その先達は、間違いなくヤン・ファン・エイク。メトロポリタンにある小さな祭壇画は、その証明なのだ。


追記:Mizumizuが行ったときは、日本館が全日クローズだった。メトロポリタンにはこれで3度行ったことになるが、日本館は1度しか見たことがない(もう1度は、確か午前中だけなどの時間制限があって、見ることができなかった)。偶然かもしれないが、インフォメーションで日本館のオープン時間を確認してから見学を始めたほうがいいかもしれない。






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最終更新日  2009.06.24 13:35:44



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