鳩山政権 温室効果ガス25%削減表明
(産経ニュース、桜井よしこの記事より抜粋 2009/9/10) 鳩山氏は90年比25%、05年比で30%の削減を打ち出した。EUが掲げるのは05年比で13%、米国は14%である。麻生太郎首相が掲げた15%は、大きな目標ではあったけれど、一応他国並みだった。すでに高い省エネ水準を達成している日本が、さらに過大な負担をひとりで引き受ける状況に陥らないように、留意した目標値だったといえる。 しかし、鳩山氏の90年比25%、05年比30%は、国際社会も驚いた大胆な目標である。どの国もここまでのコミットはしておらず、その実現性について、内外の研究機関の評価は非常に厳しい。 国内各種研究機関の予測を拾ってみると、25%の削減には、太陽光発電をすべての新築住宅に義務づけ、現状の55倍増とする、原子力発電所の稼働率を現状の60%から90%以上に上げる、電気自動車など次世代車の販売を促進し、従来型の自動車を事実上禁止する、などが目立つ。だが、それでも足りず、粗鋼、セメント、エチレン、紙パルプなど、主要品目の生産のかなりの部分を他国に移さなくてはならないとみられている。 日本の産業基盤が大幅に縮小されかねない。その場合の国民負担や失業率の上昇について、民主党はなんの説明もしていない。 25%の内訳、つまり、どこでどのように削るのかについての説明もない。25%削減を実施するには、麻生首相の提唱した15%削減のコストに加え、さらに最低でも年間4兆円がかかると試算されている。民主党内にさえ「そんな額は工面できない」という声がある。補正予算見直しも凍結も、CO2削減のコスト捻出(ねんしゅつ)のためなのだろうか。しかし、予算が必要なのは、教育も少子化問題も同じである。初めて政権を取るとはいえ、あまりに理念的、かつ、冒険的な政策ではないか。25%削減は、一歩間違えると、日本を取りかえしのつかない衰退の道に突き落としかねないのだが、民主党内ではもともと40%案が検討されていたという。これで本当に大丈夫だろうかと、深く懸念する。 国際社会では、いまや気候変動への対処とCO2削減問題は切り離され、後者は完全に政治・経済の問題となっている。環境にことよせたマネーゲームの様相は、民主党の担当者も認めるところだ。 そのような状況で、友愛の精神に基づいて25%という抜きんでて高い目標を掲げることが、果たして国益に資するのか。すべての国の参加や他国も同様に高い目標を掲げるなどの前提条件をつけたとしても、数字は必ず独り歩きする。そのとき、日本だけが国富を流出させ、活力を失っていく危険性もある。理想はよい。しかし、節度なき愛が必ずしも人間を育てはしないように、冷静な観察眼なき友愛は、必ずしも日本を守り、国民への責任を果たすことにはつながらないであろう。25%の国際公約は慎重にせよ。●=簾の广を厂に、兼を虎に