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カテゴリ:SF
究極のSFと言っても、今から約半世紀前のアンソロジーである。
大したことはなかろう、と思って読み始めると、その先進性に驚く。しかも連歌のごとく、少しずつ関連しながら続いていくのだ… 「われら被購入者」フレデリック・ポール 被購入者とは、宇宙人に買われた人間のこと。一種の人身売買だが、地球に来たくても来れない異星人が、地球人の体に憑依するもので、しかも被購入者は殺人などの犯罪者なので、刑期の一種と言えなくもない。被購入者同士は、お互いに自由になる時間が一致しない限り口を利くこともできない。さて語り手は男性の被購入者。彼はある女性の被購入者に恋をするのだが、結末は… 「先駆者」ポール・アンダースン 宇宙探検のパイオニア。今度の追及は宇宙→地球の逆パターンだ。しかし、代替物を使わなければ目的を達成できないことは共通している。ここに挙げられた「テクノロジー」は21世紀の現在でも夢物語だが、問題はそこではない。先駆者は常に捨て石となるのだ。 「大脱出観光旅行(株)」キット・リード 老年からの脱出。間もなく来る死からの脱出。それは叶わぬ願いだろうか。帰ることを拒否した二人の「子ども」に待ち受けるのは何か。読者の想像力に委ねられている。 「三つの謎の物語のための略図」ブライアン・W/・オールディス この現実は夢か。小説世界は現実世界の投影か夢か。異星人が出てくるなら、その異星人の地球に対する理解はどこまで我々にとって適切か。夢の意味は。現実との距離感は。 「心にかけられたる者」アイザック・アシモフ ロボット三原則を究極まで押し詰めた時、ロボットが守るべき「人間」をどう定義するか。 「ぼくたち三人」デイーン・R・クーンツ ぼくたち三人は新人類。旧人類を滅ぼしてやった。でも今度は自分たちの子に滅ぼされる運命みたい。わが子が生まれるまでの、かりそめの優越。 「わたしは古い女」ジョアンナ・ラス 古い女どころか、旧い男たちの男尊女卑感をそのまま持ってきたような短編。『家畜人ヤプー』からSM的要素を抜いたもの、と言えばわかりやすいか。 「キャットマン」ハーラン・エリスン 父は正義の味方、キャットマン。息子は泥棒。父は息子を捕まえられない。そんな父を母は詰る。何たる家庭的アイロニー。 「CCCのスペース・ラット」ハリイ・ハリスン スペースオペラのパロディ。酔っ払いが語る、かつての相棒=現宇宙の支配者の物語。あるいはCCCの陰謀と真相。挿げ替えられた首。 「旅」ロバート・シルヴァーバーグ 永遠にパラれうわーるどを旅する男の物語。彼は生きているうちに本当の妻の許へたどり着けるだろうか? 「すばらしい万能変化機」バリー・N・マルツバーグ 性別さえも超えて、夢の世界で遊べるとしたら。オチはショートショート的。 「けむりは永遠に」ジェイムズ・ティプトリイ・ジュニア 日本語訳で読んでも男性的な文体のこの作者が、実は女性だったなんて、アンソロジーが出されたときは誰も知らなかった。それはともかく、最終戦争後の地球で、文字通り「煙」「塵」となってもなお、過去の思い出とその崩壊の記憶と意識を保ちつづけなければならないとしたら、それは何たる拷問、何たる呪いであろうか。 「時間飛行士へのささやかな贈物」フィリップ・K・ディック 遥かなる未来へ飛ぶはずが、一週間後の未来に来て、自らの葬式に立ち会う…『トム・ソーヤーの冒険』のパロディのような時間のループに閉じ込められた時間飛行士たち。何とか事態を打開しようと、ループのたびにいろいろと試みるのだが…いや、閉じ込められたのは果たして彼らだけであったのか? この世界のみんなが、無限ループの中にいるのではないか? 【中古】究極のSF—13の解答 (創元SF文庫) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023.05.06 05:16:45
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