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Jan 25, 2008
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カテゴリ:伊庭求馬孤影剣
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「それで、旦那の役目は?」

「わしは高島藩主の了解をえて絵図を与って参った」

「こいつは驚きだ、水野忠邦と全面衝突ですかえ」

 求馬が白面の横顔をみせ、大川の景観に視線を這わせた。

 猪の吉は心得て腰の煙草入れを取り出し、煙管を燻らした。

 千代田のお城の方角に日が傾き、大川の川面がきらきらと輝き行き帰りの

舟の舳先が、煌きを割っている。

「奴等は、わしの正体を知らぬが、直ぐに知れる筈じゃ」

「・・・・」  猪の吉が不審そうな顔をしている、求馬の考えが判らないのだ。

「高島藩家老の嘉納隼人正殿は、大目付の嘉納主水殿のご舎弟じゃ。高島藩

は水野忠邦牽制のために、絵図の紛失届けを主水殿に申しでる筈。それは、

わしが描いた絵じゃ」

 猪の吉は求馬の言葉を聞きながら、煙管に新しい刻みを詰めている。

「水野忠邦は権力の亡者、このままでは高島藩は改易の憂目にあおう。その

先手を打ったのじゃ、勿論、高島藩も嘉納主水殿も承知じゃ」

「あっしには難しいからくりは判りやせん」  猪の吉が頭を掻いた。

「わしとお主の素性は近々のうちに、水野忠邦に知れような」

 求馬が他人事のように云い破顔した。

「そうなりやすと影の軍団が襲ってまいりやすな?」

「それが狙いじゃ、わしは奴等を抹殺いたす。そうなれば、水野は打ち手を

失い、失脚いたそう」   「思い切ったことを考えられやしたな」

「猪の吉そのために、諏訪高島藩まで旅に出る」

 求馬の双眸が冷たく輝いている。

「判りやした、地獄の底までお供いたしやすよ」  「頼んだぞ」

「あっしは、何を遣りやす?」

「まずは一杯やろう、お蘭が戻ってきたようじゃ。三人で飲もう」

「旦那、その旅に師匠も一緒なんてないでしょうな?」

「今度の仕事は女子が必要じゃ」  求馬が迷いなく言い切った。

「師匠は知ってますんで」  「これから話す」

「それは殺生だ」  猪の吉が憤慨した声をあげた。

「お待ちどうさま、すぐに用意をいたしますから」

 お蘭が息を弾ませて戻ってきた。

「お蘭、そちも一緒にやろう」 

「ご一緒してもいいんですか、嬉しい」

 お蘭が、小娘のようにはしゃいでいる。

「肴は何にした?」  「天麩羅にしました」  

「師匠が、天麩羅ですかえ」  猪の吉が吃驚した声をあげた。

「あたしだって女だよ、馬鹿にしないでおくれな」  

 お蘭がいそいそとお勝手に消え、その後を追うように求馬もお勝手に向かい、

盆に大徳利と杯を載せて現われた。

「旦那、こんな事も為さるんで」  猪の吉が呆然としている。

「お蘭が、小唄の手ほどきをしていると、わしが遣らねば何も口に出来ぬ」

「こいつは、驚いたね」  「まず、一献参ろう」

 求馬が徳利を差し出した。  「へい、頂戴いたしやす」

 複雑な思いで酒を含み、猪の吉が求馬の顔を盗みみたが、相変わらず

白面の顔に変化はない。お勝手から美味しそうな匂いが流れてきた。

 お蘭が大皿に海老や穴子、キス、めごち、野菜の天麩羅を盛りあわせて、

二人の膳部に置いた。猪の吉がしきりに感心している。

「そこに、お醤油とお塩があるから、好きに食べて下さいな」 

 お蘭が二人の横に座り杯を手にした、猪の吉が、恐る恐るキスを頬張った。

「これは美味いや」と、感嘆の声をあげた。

 求馬が穴子を口にして酒で流し込んでいる、そんな様子をお蘭が幸せそうな

笑顔で見つめている。猪の吉が旺盛な食欲をみせている。

「旦那も食べて下さいな」  「猪の吉を見ておると腹が一杯じゃ」

「そちも一杯やれ」  求馬が、お蘭の杯を満たしている。

 今の旦那は幸せなんだな、猪の吉はその様子を見て実感していた。

「もう、駄目だ、あっしは満腹寺じゃ」  猪の吉が駄洒落をとばし箸を置いた。

「さて飲もうか」  「旦那、勘弁して下さいよ」

 猪の吉が閉口している。 

「飛礫の猪さんも歳かえ」  お蘭までが揶揄う。

 こうして猪の吉は、暮れ六つ(午後六時)頃に、満腹して帰っていった。

 開け放った窓から、屋形舟や猪牙舟の灯が、大川の川面に点滅し川風が

心地よく吹き込んでくる。お蘭が食事の後片付けをはじめた、お勝手から洗い

物の音が聞こえ、求馬は大川を眺め飲みつづけている。

「まだ、お飲みですか」  「そろそろ酒はお開きじゃ」

「お茶を淹れましょうか」  「そうじゃな、酔いでも醒ますか」

 求馬が杯を伏せ、お蘭が嬉しそうにお勝手に戻っていった。

 二人が、大川を眺め茶を啜っている。

「お蘭、一緒に風呂にでも行くか」   「本当ですか」

 求馬が居候を決め込んでから、このような誘いを受けた事はなかった。

二人は肩を並べ風呂に向かった、お蘭が盥を抱え、いそいそと歩んでいる。

 身内から幸せな感情が湧きだし、おずおずと求馬の腕に手を添えた。

 そんな、お蘭の眸が潤んでいた。

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Last updated  Jan 25, 2008 04:57:55 PM
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