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Jan 24, 2008
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カテゴリ:伊庭求馬孤影剣
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           (四章)

 神田明神下の棟割長屋である、通称、小便長屋の九尺二間の奥の四畳半

で、猪の吉は自棄酒を浴びている。

 この場所から、神田川の対岸が駿河台の武家屋敷町である。

「畜生ー」  すでに何度となくこの悪態が口を吐(つ)いてでる。

 駿河台の一件が忘れられないのだ、欠け茶碗に冷酒を注ぎ一気に半分ほど

飲干した。猪の吉の部屋は、見事なほどに何もない、一個の欠け茶碗は杯の

かわりにもなるし、飯盛りにも使える便利な代物である。

 大皿には辻売りの惣菜屋から、購(あがな)ってきた棒鱈の煮物と味噌田楽が

載っている。それが猪の吉の酒の肴であった。

「奴等の隠れ家は何処かな」  独り言を呟き、突然に現われた浪人の姿が、

瞼の裏から消えないのだ。

 あの浪人と出合ったら逃げることだ、これは長年、修羅場から会得した勘で

あるが、それが癪の種であった。奴等は御府内の何処かに潜んでいる、それ

が猪の吉の勘である。それを調べるとなると事である、四里四方を全て探らね

ばならない。とてもの事ではないが、一人では到底無理である。

 日本橋の、お蘭師匠の家を訪れるか、伊庭の旦那に浪人の件も話さねば

ならない。こうまで事件が複雑となると放ってはおけない。

 腰高障子が開き、紺絣(こんがすり)の単衣を粋に着こなした、猪の吉が姿

を顕したのは、午後の八つ半(三時)前であった。

「暑いねえ」  残暑が江戸の町を容赦なく照らしている。

 柳が繁った神田川の船着場から、猪牙舟に乗り込み日本橋へと向かった。

 相変わらず、日本橋は旅人でごったがえしている。なんせ、主要街道と云わ

れる、五街道は日本橋を起点としていたのだ。

 日本橋河岸から雑踏をわけ、慣れた道筋を辿り、目指すお蘭師匠の小粋な

玄関前で足を止めた。格子戸が開け放たれ、大川の涼しい川風が吹き込んで

いる。  「ご免なすって」  「あら、猪さん、珍しいね」

 お蘭が目を丸くしている、最近は猪の吉も、とんとご無沙汰していた。

「旦那はおられますかえ」  「奥の部屋に居られますよ」

 猪の吉が足の埃を手拭ではたき部屋にあがった。

「どうぞ」  お蘭が先に立って案内した。島田髪に簪を挿した襟足が

色っぽく映り、鬢付け油の匂いが猪の吉の鼻腔に漂ってきた。

 お蘭は小紋を配した半模様の、地味な縮緬の着物姿であるが、小唄の

師匠らしく、仇っぽい後姿を見せつけ奥に声をかけた。

「旦那、猪さんですよ」  「猪の吉か、入れ」

 求馬の乾いた声に誘われ中に入った。求馬は村正の手入れの最中であった。

鈍い光沢(こうたく)を放つ村正の地金が、冴々と猪の吉の眼に映った。

「ご免なすって」  「七面倒な挨拶なんぞ止しにいたせ」

 猪の吉が窓辺に腰をおろした。

「旦那、相変わらず眺めのいいことで」  窓から大川の眺めが見える。

 高瀬舟が帆に風をうけ、荷物を満載として大川を遡って行く。

「お蘭、久しぶりじゃ、酒の肴を見繕ってまいれ」

「はいな」  流石は江戸の鉄火女だけに歯切れがよい。

 内密な話があると感じた、お蘭はすぐに玄関に向かった。お蘭の足音が

途絶えるや、  「猪の吉、昨夜は苦労をかけた」

 すかさず求馬が労いの言葉をかけた。

「滅相な、旦那。あっしが迂闊でした」  猪の吉が悔しそうな顔をしている。

「わしが帰った後で何が起こった」  村正を鞘に納めた求馬が訊ねた。

「へい」  猪の吉が全てを語った。

「そのように浪人が現われたか?」

「あっしも初めて冷汗をかきやした、一刻ほど動く事が出来やせんでした」

「お主が動けぬとは、相当の腕を持った浪人じゃな」

「奴は六紋銭の手練者で、闘牙の三十郎と名乗って消えやした」

「闘牙の三十郎か、覚えておこう、この先も、お主に面倒をかける事になる」

 求馬の双眸が鋭くなった。  

「何時でも声をかけておくんなせえ」

「猪の吉、高島藩の秘密が判明した。武田信玄の隠し金塊の絵図が代々伝わっ

ておった、それを嗅ぎつけた老中首座の水野忠邦が、六紋銭を使って絵図を

盗もうと画策しておった」 「隠し金塊の絵図、・・・本当でございやすか」

 猪の吉が眼を剥き、求馬が無言で肯いた。


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Last updated  Jan 25, 2008 09:12:06 AM
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