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Feb 7, 2008
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カテゴリ:伊庭求馬孤影剣
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 日本橋のお蘭の家に猪の吉が顔を出したのは、夕刻の六つ半(七時)頃で

あった。残暑の名残りが家々の軒下に漂っているが、大川の川風が気持ちよく

吹き流していた。こうして三人が旅の首尾を祈って酒盛りをはじめた。

 江戸を発ったら、このように悠長にはしておれないだろう。何時、水野忠邦の

影の軍団である、六紋銭が襲ってくるやも知れない。

「ご免なさいね、今夜は煮染め屋の惣菜で我慢して下さいな」

 お蘭が済まなそうにしている。
 
 それぞれの膳部には、太刀魚の焼き魚としめ鯖、蒲焼と金平ゴボウがのって

いた。全て惣菜屋から求めたものである。

「お酒だけはありますから、猪さん、心置きなく飲んで下さいな」

「師匠、これだけあればご馳走だよ」

 開け放った座敷からは、何時もの大川の景観が見える。三人は明日の旅立

ちに思いを馳せながら、江戸での酒を楽しんでいた。

「お蘭、そちも一杯飲め」  求馬が勧め、お蘭が嬉しそうに咽喉をならした。

「明日は足慣らしの意味で、五つ(朝の八時)発ちといたそう。甲州道中に一歩

踏み込んだら、敵地と思え」  求馬が念押しをした。

「旦那と旅が出来るなんて夢のよう」 お蘭が、うっとりとした顔をみせている。

「師匠、一杯」  猪の吉が徳利を差し出し気遣っている。

「有難う、あたしはお二人の足手まといにならないよう頑張ります」

 求馬は相変わらず、白面の顔を晒し杯を口にしている。

「旦那も猪さんも、あたしの晴れ姿を見て下さいな」

 お蘭がいそいそと隣りの部屋にむかった。微かな衣擦れの音が聞こえる。

 猪の吉が、素早く昨夜の一件を耳打ちした。

「そうか、嘉納主水殿が承知されたか?」

「へい、阿部政弘さまにも企てをお知らせして下さりやす」

 二人が密談を交わしていると襖が開いた。

「さあ、ご覧になって下さいな」  お蘭が色っぽい旅姿で現れた。

 淡い水色地に細い縞模様の入った着物に、茶色の弁慶縞の旅衣を纏い、

手甲、脚絆を付けた足袋姿を披露した。

「こいつはお似合いだ」  猪の吉が手をうって囃した。

「あとは菅笠を被り、手行李を抱えりゃ終りですよ」

 お蘭が求馬に笑顔を振りまいた。 「杖を忘れるな」  「はいな」

「旦那、師匠の姿は目立ちすぎですぜ」  「それが付け目じゃ」

「男同士でなにをごそごそ言ってるんですか」  目敏くお蘭が啖呵をきった。

「流石は鉄火肌のお蘭師匠だ」  猪の吉が囃したてた。

「さあ、熱燗ですよ、江戸の名残りで今夜は飲んで下さいな」

 旅姿の形をしたお蘭が求馬と猪の吉に酒を勧め、求馬の傍らに座った。

「旅に出ては安心して酒も飲めぬかも知れぬ、そちも心置きなく飲む事じゃ」

 求馬がお蘭の杯を満たした。

 三人の旅立ちを祝うかのように、満月が皓々と部屋中を照らしていた。

 翌朝、明け六つ(午前六時)の鐘が、鐘撞堂から打ち鳴らされた。

 江戸には九つの鐘撞堂があり、江戸の一日の始まりを告げていた。

 三人は、お蘭の用意した軽めの朝餉を食し、旅支度をはじめた。

 求馬は何時もの黒羽二重の着流しに、柳行李を振り分けに担ぎ、猪の吉は

濃茶の単衣に紺色の股引を着用し、膝下から脚絆をつけ、求馬同様に柳行李

を振り分けとし、道中差しを腰にした厳重な身支度をしていた。

 お蘭は旅衣を纏い、腰の辺りに緩く紐を結んでいたが、それが妙に色気を

感じさせている。手行李と杖を手にし、紅緒の草鞋を履いて玄関を閉めた。

「ようござんすよ」  と声をあげた、お蘭の顔が紅潮している。

 求馬が、ゆったりと雑踏を掻き分け、お蘭を真ん中として猪の吉が後ろを

固めるように、三人は四谷の大木戸へと危険な一歩を踏み出した。

 目指すは最初の宿場の内藤新宿である。もともと初宿は上高井戸であったが

日本橋から四里余りの距離があり、あまりに不便であるという事で元禄十一年

に、初宿を内藤新宿と定められた経緯があった。

 三人は四谷本通から、四丁目に向かい、二股に分かれた道を右手に折れた。

 行く手に大木戸が見えてきた、ここが甲州道中の検問所である。

 明け六つから、暮れ六つまで開いていた。一行は大木戸を潜り内藤新宿に

足を踏み入れた。  「猪さん、汚い宿場だね」  お蘭が驚き声をあげた。

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Last updated  Feb 7, 2008 11:18:50 AM
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