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Mar 22, 2008
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カテゴリ:伊庭求馬孤影剣
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「お帰りにございますか」  玄関に飛び込むと番頭が驚き顔で出迎えた。

「旦那はまだ居られますかえ」 と性急に訊ねた。

「お連れのお方と明け五つ頃に出立なされました」

 猪の吉は詳しい話を聞き、荷物をまとめて二人の跡を追った。

「地蔵堂から、脇道があると番頭が云っていたな」

 猪の吉は誰一人と通らない街道を急いだ、刻限は正午頃と思われる。

 太陽が真上に位置している。

 地蔵堂の傍らに茶店をみつけ、老婆から二人の消息を聞きだし、獣道の

ような脇道に入り込んだ。

「これは?」  猪の吉の眼が鋭くなった、歩くに邪魔な小枝や枯れ木に

鉈の跡が残っている、まだ、真新しい傷痕である。

「旦那だ、これなら充分に追いつける」 と一心に先を急いだ。

 暫く進み、猪の吉が空を仰ぎみた。重畳と連なる山々の峰から黒雲が湧き

だすような空模様となってきた、時折、生暖かい風に変わり徐々に強まって

くる。 「いけねえや」  雨の前兆と悟った。

 こんな山中での女連れでは、旦那であっても苦労なされる、何処か風雨の

凌げる場所に避難されておればいいが、猪の吉は自分の危険も忘れ小路を

急いだ。

 その頃、求馬は嵐のくることを予知していた。彼は桂川の水位の高まりを

恐れた、この場所に洪水が襲ってきたら、お蘭を守りとおせない。

 彼は入念に崖下を見て廻った。求馬の双眸が強まった、崖の岩の色に違い

があることに気づいた。彼の背丈あたりから崖の色や苔の様子が変わってい

る。 「ここまでが水に浸かった跡じゃな」 鋭く見極めた。

 早く安全な場所はないかと崖下を見回り、避難場所としての格好の穴場を

みつけた。そこは六尺ほど高い場所の洞窟であった。

 求馬は迷わず足を踏み入れた、内部は乾いた砂で覆われ湿気も少ない。

 ここに、お蘭と供に嵐を避けよう、そう思案し付近の枯れ草を刈り、その上に

長合羽を敷いた。こうしてお蘭を横たえてから荷物を運びあげた。

 彼は鉈を持って薪となるような枯れ木をみつけ、鉈をふるった。

 それらも洞窟に運び入れた、これで焚火は完全である。残るは水の確保で

あった、水筒の竹筒は二個あるが、これでは凌げない。

 再び河原にもどり周囲を見廻した。格好の得物が眼についた。それは流木と

して流れ着いた竹であった、もう乾燥して中はからからに乾いている。

 手ごろの長さに切り、川水で内部を洗い水を入れて洞窟に運び入れた。

 それらを砂に突き立てた、これで急場はなんとかなる。

 求馬は枯れ木に火を点し焚火とした、洞窟内が炎で明るくなり、お蘭の様子も

よく見える。額に手をあてたが熱は出ている兆候はない。

 外は烈しい風雨となってきた、轟々と雷鳴が轟き稲光が洞窟まで奔りぬける。

 求馬は柳行李から、握り飯の包みを取り出し一個を食べ、水筒の水で咽喉を

潤した。益々、風音が強まり雨脚も烈しくなっている。

 求馬は枯れ草に躯を横たえた。

 その頃、猪の吉は風雨の中を必死で進んでいた。幸いにも求馬が先に進んだ

お蔭で迷うことなく前進が出来た。近くの大木に落雷がおち火柱がたったが、

臆せずに突き進んだ、桂川の水位があがったようだ。

 時折、足元に水が押し寄せ草鞋が濡れた。

「やばい事になったぜ」 と独語し前方の暗闇を透かしみた。微かな明りが

見えた。  「ひよっとすると旦那かも知れねえな」

 猪の吉が足音を忍ばせ、熊笹を掻き分け洞窟にたどり着いた。

「誰じゃ」  聞き覚えのある求馬の声であった。

「旦那っ」  「猪の吉か?」  「へい、あっしです」

 びしょ濡れの猪の吉が、洞窟に這い上がってきた。

「風邪を引くぞ、火のそばに参れ」  求馬が枯れ木を投げ入れた。

 猪の吉が着替えを終え、焚火のそばに寄り眼を剥いた。

 お蘭が枯れ草を褥(しとね)として昏々と眠っている。

「師匠は怪我でもしやしたか?」  求馬が六紋銭との死闘の有様を語った。

「容態はどうです」  「今のところは大丈夫じゃ」

「そうですか」  猪の吉が安堵の様子で焚火に手をかざした。

「お主は、一晩、何をしておった」  訊ねる求馬の横顔が火に照らされ

浮かびあがっている。

「あっしも酷い目に遭いやした」  お駒との一件を告げた。

「たまには女を抱くのも良い事じゃ」

「抱かれたのは、あっしのほうでさあ」  猪の吉が憤りをぶちまけた。

「抱こうと、抱かれようと同じ事じゃ」  珍しく求馬がくっくつと笑え声をあげ

ている。 「そうは行きやせんよ、今度、会ったら目にもの見せてやりやす」

 雷鳴が轟き青白い閃光が洞窟内を奔りぬけた。

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Last updated  Mar 22, 2008 10:52:28 AM
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