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Apr 4, 2008
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カテゴリ:伊庭求馬孤影剣
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      (十一章)

 翌日は曇天の朝であった。三人は厳重な身繕いを終え旅籠の玄関で草鞋を

履いていた。  「お客さま、無事に峠を越えてくだされ」

 番頭が見送りに出てきた。  「雨はどうじゃな?」

「今日一日は保つと思いますだ」  「そうか、世話になった」

 求馬が袴をはいて軒下を踏み出した。  「昨夜の鍋は美味かったぜ」

 猪の吉が道中合羽を身につつみ、番頭に言葉をかけ表に出た。

「有難うございましただ」  番頭の声を背中に聞き、道行き衣を羽織った

お蘭が、杖を手にし赤い蹴出しをみせ二人の後を追って行った。

「番頭さん、あの女(ひと)に惚れただべえ」

 小女が揶揄い番頭が赤くなった。  「雨が降らねば良いがの」

 番頭が小首をかたむけ奥に去った。

 鬱蒼と樹木が繁った山並の上空には、重苦しい雲がかさなり天候の荒れ

る様相を見せている。  「旦那、大丈夫でしょうな」

「番頭の言葉を信ずるだけじゃ」  「看板がありやすよ」

 猪の吉が行くてを指差した。狭い街道には、「此処より笹子峠」と書かれ

た古い標識があった。標高三千三百余尺の笹子峠は江戸日本橋から、下諏訪

に至るなかで最大の難所として知られていた。

 この峠を越えると甲斐の国となる。道はゆるやかな勾配で登り坂となってきた。

 樹木が街道を覆え隠し、時々、笹子川の流れが見える。

 一町ほど進むと樹齢何千年と思われる杉の大木に行き着いた。

「これが有名な、矢立の杉じゃ」  「大きな杉ですな、内部は空洞ですぜ」

 猪の吉が感心の面持ちで見つめ、お蘭も足を止めて眺めている。

「故事じゃが、合戦にゆく武者がこの峠を越える時、矢をたて戦勝を祈願した

と云われておる」  求馬が説明し古木の梢を見あげている。

「そんなに古くから使われた峠ですかえ」  猪の吉が周囲を眺めた。

 この先からは街道と言うよりは立派な山道であった。

「驚いたね、山歩きだよ」

「そうじゃ、黒野田宿から頂上まで一里十五町、下りは二十一町と云われる。

頂きまでは一刻半はかかろう、足場も悪くなる気をぬくな」

「はいな」  渓谷より吹き上がってくる風は冷たくお蘭が頬を赤くしている。

 求馬を先頭に黙々と峠を登った。時々、崖崩れなどで道が途絶え迂回しなが

らの行程であった。  「お蘭、大丈夫か?」  「はいな」

 気丈に答えお蘭が杖をついて従っていた。

 途中で猪の吉が足を止め何事かしている。 「猪の吉、何をしておる」

「へい、六紋銭に備えて飛礫の用意ですよ」  流石に歴戦の猛者である。

「襲いくるなら頂上じゃ」  

「そうですな、こんな小道では身動きがとれやせんな」

「猪の吉、何刻じゃ」  「まだ五つ半(九時)頃と思われやすな」

「そうか、平坦な場所で少し休息しよう」

 お蘭には、もう一刻ほども進んだと感じられたが、まだ四半刻(三十分)ほど

しか経ってない事を知らされた。三人は道の傍らの平坦な場所で休んだ。

 求馬と猪の吉が煙草を燻らしている、お蘭は竹筒の水で軽く咽喉を潤した。

「笹子峠の由来を知っておるか?」  求馬がお蘭に声をかけた。

「あたしには無理ですよ」 お蘭が額の汗を拭いながら答えた。

「この峠は鶯の名所で知られておる。「笹子」とは鶯の幼鳥を云うそうじゃ。

満足に鳴けない頃の鶯の名じゃ」  珍しく求馬がさかんに言葉をかける、

お蘭を勇気づけるためであった。一行は悪戦苦闘してようやく峠の頂に着いた

頃は正午を迎えていた。小さな切り通しのような頂上であった。

「ここが笹子峠の頂上ですか?」  「そうじゃ、よく頑張ったの」

「何にもねえ頂上だね、ここで腹ごしらえでもしやすか」

 猪の吉が、日当たりのよい場所を選んでお蘭を休ませた。江戸育ちのお蘭の

足では、番頭の言葉どおりには進めない。しかし、ここからは下りにかかる、

無理をする必要もなかった。

 求馬が握飯を口にしながら五感をすませているが、なにも不審な気配はない。

「お蘭、草鞋を脱いで足の裏を揉むことじゃ、楽になる」

「はいな」  握飯を食べ終わったお蘭が草鞋を脱いでいる。

「ここから下りになる、峠の先は駒飼宿じゃ。その先には関所がある鶴瀬宿じ

ゃが、どちらに泊まるにしても明日には甲府に着く」

「甲府で何か起こりやすな、あっしにはそんな予感がしゃすよ」

 猪の吉が思案顔で求馬を見つめた。  

「まずは無事に峠を下ることじゃ」

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Last updated  Apr 6, 2008 01:46:12 PM
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