長編時代小説コーナ
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龍5777
基本的には時代小説を書いておりますが、時には思いつくままに政治、経済問題等を書く時があります。
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「死に遅れた男」 「暫時、待たれよ」 庄兵衛は浪人達に声をかけ、鍬形四郎兵を境内の奥に誘った。 「鍬形殿、二人はそこもとが選んでくれまいか。ここに支度金がある。これで 身支度を整え、三日後にこの場で落ちあい致そう」 庄兵衛が慶長大判二枚を預けた。 「このような大金を拙者に任される申されるか」 鍬形四郎兵の髭面が感激で崩れた。 「お互い槍を交えた仲にござる、二名の人選は頼みましたぞ」 「はっ」 鍬形四郎兵が膝を着いた。 「方々に申しあげる。それがしは所用で退散いたすが、ここに居る鍬形殿に 残り二名の人選を願った。選ばれた方は鍬形殿の下知に従っていただく後日 お会いいたそう」 庄兵衛が浪人等の屯する場所に戻り告げた。 「鍬形殿、良き武者を頼みますぞ。お会いする時は大阪城に入城する時にござ るぞ」 庄兵衛はそう告げ鎧櫃を肩にその場から去った。 (四章) 慶長十八年六月の吉日、加持庄兵衛は長年住みなれた長屋を後にした。 「旦さん、ご無事で」 くめが軒下から涙顔で見つめていた。 (先ずは家来に会わねばな) そう思いつつ大身槍を肩にして古寺へと向かっ た。新芽の匂いと若葉が眼に眩しい日である。境内の奥に鍬形四郎兵と新規 の家来、二人が庄兵衛を待ち受けていた。 三人とも甲冑姿である、松に繋がれた三頭の馬が視線に入った。 「お頭、お待ち申しておりました」 「おう鍬形殿、二名の者を紹介してくれ」 庄兵衛が大身槍を土塀に立てかけ声をかけ、三名が片膝を着いた。 「お頭、鍬形と呼び捨てに願いますぞ」 すかさず鍬形四郎兵が声を発し、 「この者は宇喜多家浪人、磯辺隼人」 三十後半の武者面の良い男を紹介した。 「磯辺隼人にございます。身命を投げうちご奉公仕ります」 「いま一人は生駒軍兵衛にございます。我が同輩の倅にございます」 剽悍な眼差しの若武者が会釈した。 「わしが加持庄兵衛じゃ。皆の面魂、気に入った。縁あって主従となるが、 わしが気に入らずば遠慮のう見限る事じゃ。わしもそうして参った」 磯辺隼人と生駒軍兵衛が驚いた顔をした。 「わしは大阪城におわす片桐且元様に仕官した。今に大戦がはじまろうが、 豊臣方は勝てぬと見ておる。わしは死花を咲かせるために仕官いたした。 それでも家来として付いて参るか?」 庄兵衛が驚くべき言葉を吐いた。 「お頭、水臭い。我等はいずれも豊臣恩顧の大名の家臣でござった、そのお 気遣いはご無用にござる」 鍬形四郎兵が代表とし平然と応じた。 「気に入った。ところで鍬形、その甲冑はに覚えがある」 「これは関ヶ原で纏っておりました鎧にございます」 「忘れるものか、よく今まで持参しておったの」 「今に関ヶ原の雪辱が出来ると信じ、歯を食いしばり持ちこたえて参りました」 「流石じゃ、それでこそ大谷刑部殿の家臣じゃ」 鍬形四郎兵には武辺を誇りとした、武者気質が全身から漂っている。 磯辺隼人が礼の言葉を述べた。 「生駒と拙者は浪々のために伝来の甲冑を銭にかえてしまいましたが、お頭の お蔭で新しい甲冑と騎馬を頂き、武者として恥ずかしくない身形が整えられ 感謝申しあげます」 「そうか、鍬形の配慮か。ところで金子は足りたか?」 「流石は慶長大判、大層なご利益にございました。残金は飲み代といたしまし た」 鍬形四郎兵が頬を崩し報告した。 続く
武辺者(29) Apr 22, 2010 コメント(4)
武辺者(28) Apr 21, 2010 コメント(3)
武辺者(27) Apr 20, 2010 コメント(3)
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