長編時代小説コーナ
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龍5777
基本的には時代小説を書いておりますが、時には思いつくままに政治、経済問題等を書く時があります。
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「騒乱江戸湊(95)」 「そうか豊後、おいらにも分かったぞ、大川の東側の堀割りに奴等を 入れてはならねえんだ。東河岸を固めれば、奴等は大川を使い永代橋から 江戸湾に出なければならんな」 「そうなんです。永代橋に厳重な警戒網を敷けば、奴等は袋の鼠です」 二人の会話を耳にしながら、求馬は停泊する鳳凰丸を凝視している。 暫く思案し、二人にむかって意見を述べた。 「お二人の申される通り、闇公方一味の逃走経路は若山さんの言われた通り でしょうな。それがしは鳳凰丸の襲撃方法をいろいろと練ってきました」 求馬が気負いのない声を二人に浴びせた。 「出来ましたか?」 二人が興奮の声をあげた。 「この石川御用地と六万坪地の岸部に、目立たないように船手組の船を潜ま せます。鳳凰丸が回頭を終え船尾を永代橋に向け、投錨し停泊した時が襲撃 の時となります。石川御用地からは鳳凰丸の右舷を狙い出撃いたす」 「六万坪地はいかが成されます」 二人が興味を浮かべ訊ねた。 「六万坪地からの船は鳳凰丸の舳先に向い、左舷を襲い鈎綱を利用し船上に 乗り移ります」 「こいつは面白くなったぜ、鈎綱とは思いつかなかった。それを使い乗り込む なんて考えもしなかったぜ」 天野監物が興奮し若山豊後の手を握りはしゃいでいる。 「お二人とも船上をご覧なされ」 求馬が厳しい声をあげ顎をしゃくった。 「あれは火縄銃ですな」 鳳凰丸の船上には警護の男等が、火縄銃を抱え警戒にあたる姿が見えた。 「こいつは厄介だぜ」 天野監物が低く呟いた。 「ご案じめさるな、我等は短弓でのぞみましょう。舷側に張り付けば銃は役に たたなくなります」 求馬が小鬢(こびん)を風に靡かせ答えた。 「成程、船体の膨らみが死角となりますな」 若山豊後が納得顔で答えた。 江戸湾が薄明るくなってきた。鳳凰丸の帆がするすると張られ、錨が 引き上げられ、巨体がゆっくりと動きだした。 見る間に速度をあげ三人の視界から、品川沖に姿を消し去った。 その様子を見つめ、求馬が興奮も示さず二人に決行日を告げた。 「勝負は明日の丑の刻と決めました」 「それは真にございますか?」 「そのように嘉納殿を通じ、首座殿を説得いたす」 既に求馬は何時もの態度に戻っていた、彼は愛用の煙管を銜え紫煙を 吐きだし、明るくなった江戸湾の海を見つめ言葉を続けた。 「お二人に申しあげる。襲撃の指示は老中首座殿から各部署に伝達をお願い します。お二人はその指示に従って下され」 こうして三人が日本橋に着いたのは、四半刻後のことであった。 船着場に猪牙船をつけ、天野監物と若山豊後は組屋敷へと向かった。 「お二人ともお忘れあるな、明日の丑の刻が勝負にござるぞ」 二人は求馬に小腰を折って挨拶し去っていった。 求馬はゆったりとした歩調で近くの一文字湯に向かった。朝風呂に浸かって 汗を流してゆこうと思ったてのことであった。 「ご浪人、珍しく朝風呂ですかえ」 番台の禿親父が声をかけた。求馬の存在はこの辺りでは有名のようだ。 なんせ独り身のお蘭の家に、居候を決め込んでいるのだから。 湯船に浸かり汗を流し、求馬は辻売りの蕎麦で腹拵えを済ました。 これから嘉納主水を訪ねる積りであった。今の刻限なら登城前と思った。 案の定、門前には駕籠が止められていた。 求馬は朝日を浴びながら駕籠に近づいた、野鳥がかしましく囀っている。 「これは伊庭さま、いかが成されました?」 根岸一馬が登城のための紋服姿で現れ、驚き顔をした。 「いよいよ勝負時と心得、登城前に押しかけて参った」 「伊庭殿、この早朝に御出でとは何か分かりましたな」 主水が大紋長袴の一般礼服姿を門前に表し声をかけた。 「明日の丑の刻が勝負時と判断いたしました。首座殿にはその旨をお伝え 下され」 「待たれえ、詳細をお聞かせ下され」 「嘉納殿、登城の刻限にござる。鳳凰丸は毎晩江戸湾に侵入しております。 その為の警備を整えるようお伝え願います」 「真にござるか?」 主水が驚きの声をあげた。 「お帰りの刻限に再度、お邪魔いたす。仔細はその場にて」 求馬の痩身がすいと駕籠脇から離れて行った。 騒乱江戸湊(1)へ
騒乱江戸湊 Aug 9, 2011 コメント(198)
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騒乱江戸湊 Aug 6, 2011 コメント(59)
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