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龍5777

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Sep 5, 2011
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カテゴリ:伊庭求馬活殺剣
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     「影の刺客」(5)

「おらあ殺されても動かねえ」

 一人の百姓が腹をくくって座りこんだ。

「面白い、我等に逆らうとはいい度胸じゃ」

 若山豊後が眼を細め近づいた。百姓の顔に恐怖の色が浮かんだ。

 無言の懸け声とともに若山豊後の大刀が光を放って奔りぬけた。

「ひゃ-」

 悲鳴があがり、百姓の髷が刎ね斬られ宙に舞った。

「今度は手加減はしねえ、それとも一生寄場人足として生きるかえ」

「お許しを」

 腰をぬかした百姓が蒼白な顔で手をあわせた。

「分かったら温和しく帰んな、再び戻るようなら今度は容赦しねえ」

 若山豊後が厳しい声で諭し、大刀を鞘に納めた。

 ぞろぞろと薄汚れた身形の百姓の群れが里の方に戻って行く。

「よいの、辛抱して頑張るのじゃ」

 天野監物の声を背に、百姓たちは北の亀高村にむかって去った。

「終わったの、豊後、じゃが寄場人足とは驚いたぞ」

「天野さん、奴等には分かりはしませんよ」

「そうじゃな、我等は引き上げるがおめえは五名と残ってはくれまえか」

「何をします」

「百姓が戻らねえように見張ってくんな、ついでに安女郎屋を見つけだし、

女を放免してやんな。あとで握り飯を届けさせる」

「分かりました。握り飯に酒の一本も頼みますよ」

「調子に乗るんじゃねえ。だが今日だけは大目にみてやろう」

「流石は天野さんだ、頼みますよ」

 天野監物は捕縛した無宿人を引っ立て猪牙船で去っていった。

 若山豊後が百姓を脅した寄場人足とは、正確にいえば人足寄場と言う。

これは犯罪者の更生施設で、寛政二年に老中首座松平定信が、火付盗賊

改方長官の長谷川平蔵に命じて作らせたものであった。

 場所は江戸湾に浮かぶ石川島で総坪数三千六百坪の敷地である。

 後年の慶応二年に寄場人足により、佃島に灯台が作られ江戸湾を

訪れる船舶の安全に役立ったと伝えられている。


 大名小路をぬけ神田駿河台へと向かう道を、羽織袴姿の武士が足早に

通りすぎた。随分とくたびれた衣装であるが彼の一張羅である。

 武士は火付盗賊改方同心の天野監物であった。

 周辺は豪壮な屋敷が建ち並び、千代田のお城の屋根が東に見え、古木

や巨木に覆われた樹木のすき間から甍が見えた。

 ここでも樹齢何百年も経ったと思われる大木が折れ、大風の爪痕を偲ば

せている。天野監物は嘉納屋敷の門前に足を止め、脇門を軽く叩いた。 

「どなたにござる」

 門番が現れ不審そうに天野監物の全身を眺めている。

「火付盗賊改方の天野監物と申す。大目付さまに御意をえたい」

「暫時、お待ちくだされ」

 門番が奥に消え、かわりに用人の根岸一馬が現れた。

「これは天野殿、御前がお待ちなされておられる」

 根岸一馬が気さくに長廊下を伝い書院に案内した。

「御前、天野殿にございます」

「天野、大儀じゃ。遠慮のう部屋に入れ」

 野太い主水の声に誘われ、襖をあけた天野監物が敷居ぎわに平伏した。

「そのように畏まるな、わしの前に座れ」

「御免」

 天野監物が腰を低め書院に躰を入れた。見事な坪庭を背に嘉納主水が

脇息に身をもたせていた。相変わらず濃い髭跡をした肉太い顔をしている。

「大風の後始末で報告が遅れまして申し訳ございませぬ」

「本所、深川は大変な状況と聴いておる」

「はい、御府内近辺まで百姓難民が押し寄せ、ようやくかたがつきましてご

ざいます」

「それはご苦労じやった」

 暫くその話に花が咲き、主水が先日の事件に話題をかえた。

「わしが斬り捨てた三名の曲者じゃが証拠になる物は見つかったか?」

「それにございますが、あの地で五名の死骸を発見しました。二名は舌を

噛み切って果てておりました」

「警護の者に手傷を負わされた者共じゃな、それにしても見事な者共じゃ」

「逃げきれぬと覚悟し、舌を噛み切って果てたと推測いたします」

 天野監物が不精髭の生えた顔をさすり無念そうに答えた。

「五名からは不審な物は出て参りませんでした。また現場も大風のため

痕跡が跡形もなく不覚をとりましてございます」

「そうか、何も分からずじまいか」

 野太い声に落胆がこもっている。

「ただひとつ腑に落ちないことがございます」

 天野監物が主水をみつめ声を低めた。


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Last updated  Sep 5, 2011 12:09:42 PM
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