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Sep 16, 2011
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カテゴリ:伊庭求馬活殺剣
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     「影の刺客」(14)

 猪の吉は馬鹿話をしつつ、求馬を思いだしていた。もう一か月以上

も逢っていない。

(旦那のことだ、この事件にも首をつこんでいなさるかもな)と、

そんなことを思いながら酒で咽喉を潤していた。

 半刻ほど飲んで店の前で秋空を眺めた。

 刻限は昼の八つ(午後三時)を少し廻った頃であろう。

 道には酉(とり)の市の帰りと思われる人々が、熊手を手に三々五々と

家路を辿る姿が見受けられる。十一月初の酉の市の日に市がたつのだ。

 猪の吉は神田橋を渡り、日本橋へと無意識にむかっていた。

 相変わらず上野広小路は人であふれている。日本橋界隈は旅姿の

武士や町人で賑わいを見せていた。

 なかには品川辺りで最後の紅葉見物を楽しんだと思われる、一行が

陽気な声で通り過ぎて行く。

 そうした雑踏を器用に避けながら、日本橋の手前から左に曲がり、

慣れた小道を辿った。三丁もゆけばお蘭師匠の小粋な家に着く。

 ふっと人の気配を感じ眼を凝らした、軒下から猪の吉がむかう方角を

見つめている、勤番侍らしい武士が佇んでいた。

 田舎くさい身形をしているが、腰の据わりが見事な武士であった。

 小鬢に面摺(めんず)れの痕がうかがわれる武士である。

 猪の吉が近づくと、何気ない素振りで軒下を離れた。

(おかなお侍だ) 気にしながら小道を進み背後を振り向いた時には武士

の姿は消えていた。

「御免なすって」

 猪の吉が表戸を開けるゃ、待ちかねたようにお蘭の艶姿が現れた。

「師匠、お変わりはございやせんかえ?」

「元気そのものさ、猪のさんも達者そうで結構だね」

 上が濃紺で膝下を白で染め抜いた着物が似合っている。胸元から腰

の辺りに女の色気と貫禄がうかがわれる。

「旦那はご在宅ですかえ?」

「馬鹿丁寧な言葉は止しておくれな、奥の座敷に居られますよ」

「あがらせて頂きやす」

 猪の吉がいつものように手拭で着物の埃を払い奥にむかった。

「猪の吉か、久しいの」

 求馬はいつもの白面の相貌で所在なげに窓から大川を眺めている。

 秋空の下を滔々と澄んだ水が流れ、高瀬舟が荷物を満載に積み、

帆を膨らませて大川を遡っている。その間をぬって猪牙船や荷船が

ひきも切らず上り下りしている。

「旦那、こうして見ると天下の景観ですな」

「猪の吉、荷船を眺めておると檜垣廻船の入港が解ってくる」

 その言葉で猪の吉が呆れ顔をした。こう毎日、大川を眺めておれは、

誰にでも分かることである。

「お主、ここに来る途中で不審な武士を見かけなんだか?」

 突然に求馬が話題を代えた。

「勤番侍らしいお侍を見かけましたが、それが何か?」

 求馬が微かに頬を崩した。

「昨日から、この家を見張っておる」

「腰の据わりで遣い手とみやしたがね」

「矢張り飛礫(つぶて)の猪の吉は、ただの鼠ではないの」

「あっしは鼠ですかえ」

「誉め言葉じゃ。お主に頼みがある、何で見張っておるか探ってくれぬか」

「承知、ですが旦那も目ざといですな」

「わしの宿命じゃ」

 求馬の一言が胸に堪えた、数年来の付き合いで求馬の過去は全て知っ

ている。それだけに心を休めることの出来い、宿業を背負った求馬の境遇

が猪の吉には痛いほど分かるのであった。

「猪のさん、ゆっくり出来るんでしょ」

 お蘭が二人の前に箱膳を置いてお勝手にむかった。

 膳には里芋、椎茸、人参、鳥肉の煮しめに、沙魚(はぜ)の甘露煮が乗っ

ていた。すぐにお蘭が戻り。酢蛸の小鉢にメジの刺身を手際よく並べ、熱燗

の入った大徳利をそれぞれの膳に置いた。

「何時も済んませんねえ」

「遠慮するがらでもないでしょう」

 お蘭が慣れた手つきで器用に酒を注いでくれた。

 久しぶりに三人は楽しい一時を過ごした。

 大川には舳先に灯り点し、船の数がめっきりと減っている。一仕事を

終えた船は既に船着き場に戻ったのだ。

 夜の帳が下りるとともに気温が冷え込んできた。

 お蘭が二人の横に手火鉢を用意してくれた。

「猪の吉、老中屋敷の襲撃事件じゃが、わしは曲者と思われる男等と刃を

交えた」

 求馬が杯を箱膳に乗せ呟いたのだ。

「なんですって」

「小川町広小路で斬り合いとなり、二人を斃し戻ったが、その後に老中屋敷

と内藤家が襲われたのじゃ」

「旦那のことだ、そんなことになっちゃあいねえかと心配しておりやしたが、

矢張りあっしの勘が当たりやしたか」

「一介の浪人としてお蘭と過ごしておっても、修羅の道がわしを求めて来る

ようじゃ」

 求馬が顔色も変えず平然とした態度を見せている。 


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Last updated  Sep 16, 2011 11:31:17 AM
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