6370277 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

文春新書『英語学習の極意』著者サイト

文春新書『英語学習の極意』著者サイト

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X
Feb 17, 2008
XML
ミュージカルの舞台にこの人がいる限り失敗は起こらない。
男性なら岡幸二郎さん、女性なら土居裕子(ゆうこ)さんだ。
声の美質と演技の確かさ。

「タン・ビエットの唄」には、土居裕子さんをはじめ、安寿ミラさん、駒田 一さん、吉野圭吾さんなど、名前を見ただけでわくわくする人たちが出ていて気になる作品だった。

ヒロランさんがブログ「観劇☆備忘録」で絶讃していてぜひ見たくなった。

集客力のある安寿ミラさん主演ということになっているが、歌のちからで作品全体を引っ張っているのは土居裕子さんだ。

「マリー・アントワネット」の修道女アニエス・デュシャン。
土居さんは東京藝術大学声楽科卒だけあって、やはり歌の質の次元のちがいを感じます。


ヴェトナム戦争と、その20年後の数々の再会、驚愕、幻滅、そして希望の再生を描く。

安寿ミラさんが妹フェイ、土居裕子さんが姉ティエンの役。
昭和43年の「ソンミ村虐殺事件」を下敷きにして、本作では「ハン・ティン村」の虐殺が設定されている。
その悲惨をただ2人、からくも生き延びて、いわゆる解放戦線側に逃げ込み兵士らに大事にされる。

「ハン・ティン村」事件の2年後、解放戦線側の訪欧代表団に虐殺体験の証人として妹フェイが加わる。
そして、あろうことか彼女は、安穏な生活を渇望してイギリスで亡命する。

そして20年後、あらゆるためらいをふりはらって、再会を誓って別れた姉ティエンを探しに妹フェイはホーチミン市に降り立つ。

かつて解放戦線で彼女を助けてくれた兵士たちは、輪タクの運転をする者、外国人専用のバーの経営をする者、得度(とくど)して仏僧となった者、チンピラやくざを牛耳る者など、さまざまな人生の流転を経ていた。

姉ティエンもまた時代の非情にもまれていた。
姉ティエンを愛した男があり、姉ティエンが愛し子を宿した男があり、そして……。


ストーリーが骨太だ。
明らかにされてゆく余りといえばあまりの過去の出来事が、
がつん、
   がつん
と舞台から炸裂する。


戦争中に解放戦線の夢に情熱を燃やした兵士たち。
いくさの後に夢がかなうどころか、国民は貧困のドン底に突き落とされ結局のところ上層に居座る者が入れ替わるだけだった、と語らせる台本の歴史認識もまっとう。

反戦でも、まして解放戦線讃美でもなく、人間の業(ごう)としての戦争を内側からほじくり出すように描く。

共産主義の夢なるものが幻影であり欺瞞であることが、政治的メッセージとしてではなく、ありのままの事実として織り込まれている。

ヴェトナム人から見ればたぶん相当辛口の構成だが、豊かな緑と蓮の花々のなかの希望あふれる出会いで幕を閉じる本作は、さわやかなメッセージを心に残してくれる。

それぞれの運命、それぞれの生き方があることに、すなおに向き合いながら作られているのがいい。


舞台美術もよかった。
縄をさまざまの紋様の巨大な簾(すだれ)に編んで舞台背景一面に吊した。
ジャングルのようにも見え、南洋の国そのものを表わしているようでもある。

縄の前と後ろをうまく使って、シンプルなのに効果的な演劇空間をつくった。

そして、最後のシーンになってはじめて巨大な縄簾が取り払われ、見晴らしが一気に開ける。
すがすがしく印象深い舞台が広がった。


唯一の難点をいえば、女性4名のアンサンブルの群舞が合同練習不足だった。
ひとりひとりはよくても、動作のタイミングや腕の角度が揃わなかったり、舞台上の立ち位置が適切でなかったりした。

すばらしい公演だっただけに、ちょっとした不出来が目立ってしまった。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  Feb 18, 2008 07:09:30 PM
コメント(2) | コメントを書く
[映画・演劇(とりわけミュージカル)評] カテゴリの最新記事


PR

フリーページ

泉ユキヲの観た・読んだメモ 44


観劇・読書メモ 1


観劇・読書メモ 2


観劇・読書メモ 3


観劇・読書メモ 4


観劇・読書メモ 5


観劇・読書メモ 6


観劇・読書メモ 7


観劇・読書メモ 8


観劇・読書メモ 9


観劇・読書メモ 10


観劇・読書メモ 11


観劇・読書メモ 12


観劇・読書メモ 13


観劇・読書メモ 14


観劇・読書メモ 15


観劇・読書メモ 16


観劇・読書メモ 17


観劇・読書メモ 18


観劇・読書メモ 19


観劇・読書メモ 20


観劇・読書メモ 21


観劇・読書メモ 22


観劇・読書メモ 23


観劇・読書メモ 24


観劇・読書メモ 25


観劇・読書メモ 26


観劇・読書メモ 27


観劇・読書メモ 28


観劇・読書メモ 29


観劇・読書メモ 30


観劇・読書メモ 31


読書メモ 32


読書メモ 33


34 観た・読んだメモ


35 観た・読んだメモ


36 観た・読んだメモ


37 観た・読んだメモ


38 観た・読んだメモ


39 観た・読んだメモ


40 観た・読んだメモ


41 観た・読んだメモ


42 観た・読んだメモ


43 観た・読んだメモ


購読雑誌リストアップ


泉ユキヲの美術館・画廊メモ 了


美術館・画廊メモ 1


美術館・画廊メモ 2


美術館・画廊メモ 3


美術館・画廊メモ 4


美術館・画廊メモ 5


美術館・画廊メモ 6


美術展・画廊メモ 7


美術館・画廊メモ 8


美術館・画廊メモ 9


美術館・画廊メモ 10


美術館・画廊メモ 11


美術館・画廊メモ 12


美術館・画廊メモ 13


美術館・画廊メモ 14


美術館・画廊メモ 15


美術館・画廊メモ 16


美術館・画廊メモ 17


美術館・画廊メモ 18


美術館・画廊メモ 19


美術館・画廊メモ 20


美術館・画廊メモ 21


美術館・画廊メモ 22


美術館・画廊メモ 23


美術館・画廊メモ 24


美術館・画廊メモ 25


美術館・画廊メモ 26


美術館・画廊メモ 27


美術館・画廊メモ 28


美術館・画廊メモ 29


美術館・画廊メモ 30


美術館・画廊メモ 31


美術館・画廊メモ 32


美術館・画廊メモ 33


美術館・画廊メモ 34


美術館・画廊メモ 35


美術館・画廊メモ 36


美術館・画廊メモ 37


美術館・画廊メモ 38


泉幸男のブックマーク


トランクルーム 1


トランクルーム 2


旧ホームページ掲載の記事から


中国詩人 牛 漢 の作品「半身の木」


松山市周辺の新たな鉄道整備案


伊澄航一俳句館


南川 航 詩集『ハイウェイの木まで』


「平成かなづかひ」のご説明


ぼくの小学一年生ケッサク作文


日記/記事の投稿

プロフィール

Izumi Yukio

Izumi Yukio

お気に入りブログ

こちらは世界妖怪会… New! ヨンミョン1029さん

観光客に優しいタク… New! レジャ研所長さん

レビュー『本心​』​ … New! ITOYAさん

7/14「勘三郎が愛し… New! ききみみやさん

2024年8月ハノ… New! masapon55さん

バーモント&ボスト… Urara0115さん

乃木将軍と関口長太… seimei杉田さん

東京 新橋駅から … アップラウンジさん

本田このみ木版画個… ギャラリーMorningさん

映画人の亡父のこと… モイラ2007さん

コメント新着

 リベラリスト@ Re:特定アジア、「特亜」という用語(11/04) 日本の繁栄を僻んでる? 今では日本が中国…
 通りすがり@ Re:「ございます」 を 「御座います」 と書く若い人たち(02/03) 私は30代後半ですが、中学生の頃から手書…
 名無し@ Re:「ございます」 を 「御座います」 と書く若い人たち(02/03) 嫌味ったらしい文章ですね、こんなメール…
 佐々木@ Re:リニア新幹線の迂回ルートごり押しは、長野県の恥だ(06/21) 11年越しの返信を失礼します。 現在、静岡…
 背番号のないエース0829@ 第二次世界大戦 映画〈ジョジョ・ラビット〉に、上記の内…

バックナンバー

Nov , 2024
Oct , 2024
Sep , 2024
Aug , 2024
Jul , 2024
Jun , 2024
May , 2024
Apr , 2024

カテゴリ


© Rakuten Group, Inc.
X